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キャッシュレス化がFintechのイノベーションを加速する【第81回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年6月17日

Fintechの波は米国中心から世界へと広がっている

 これらユニコーンのビジネスチャンスは、モバイル化やAI技術の活用、データの分析・予測による変革によるものだ。デジタル化の進展に合わせて、さまざまな業務をデジタルによって結び付け、それをモバイルのような形で顧客の使い易い形で提供することでDXを起こし成長している。効率化や生産性の向上によりコストを削減していることも大きな成長要因だ。

 地域的には、これら5社のうち4社を米国企業が占めている。だがFintechの波は世界中に広がっている。表2は2023年第4四半期にユニコーンになった企業のトップ4(4位は5社あり計8社)だ。

表2:2023年第4四半期にユニコーンになった企業のトップ4米CB Insightsの『State of Fintech』を元に筆者が作成)
順位会社名最新の評価額主要サービス
1Tabbyサウジアラビア15億ドル日常の買い物、収入や貯蓄の支援
2Employment Heroオーストラリア14億ドルクラウド型人事システムの提供
3Enable米国11億ドル小売業者、流通業者、メーカーの間での契約に付随するB2Bリベートの提供
4InCredインド10億ドル信頼でき透明性の高い金融機関としての個人/法人サービス、教育ローンなどの提供
Andalusia LabsUAE10億ドルブロックチェーンベースのデジタル資産リスクのためのインフラの提供
QI Techブラジル10億ドルモジュラーAPIを通じたクレジットや支払い、銀行ソリューションの開発するためのインフラの提供
Tamaraサウジアラビア10億ドル支払いの分割サービスというペイメントソリューションの提供
Vestwell米国10億ドル企業や個人の貯蓄と投資プログラムの提供

 これらユニコーンを国別にみれば、米国が2社のほかは、サウジアラビアが2社、オーストラリアとインド、UAE、ブラジルが、それぞれ1社になっている。米国では、B2B(企業間)リベートや貯蓄・投資サービスなど、よりニッチや、よりパーソナライズしたサービスへシフトしている。サウジアラビアやブラジルでは、決済や貯蓄、ローン、クレジットなど金融の基本サービス分野でユニコーンが生まれている。

デジタルテクノロジーの進化がDXを起こしている

 ユニコーン企業の活動内容を見ると、デジタルテクノロジーの進化に伴って次のような取り組みでDXを起こしていることが分かる。

デジタルによる大幅な省力化・効率化

 SaaSのような形で、ネットワークを使った集中化やリモート化によって大幅な省力化や効率化を実現する。生成AIによる自動化やモバイルオンリーによって省力化を推進する。

顧客サービスの大幅な改善

 直感的なUI(User Interface)の実現や、顧客のニーズや不便さの解消などに焦点を当てて顧客サービスを大幅に変革する

パーソナライズ

 投資や金融サービスにおけるパーソナライズ化を追求し、個人の財務目標や状況に沿った提案によって付加価値を高める。そこにはAIも力を発揮する。

業務を組み合わせることによる付加価値の創出

デジタル化により、金融サービスをECのような日常的なオンライン消費に絡ませる。例えば、商品購入の会計時に、ローンや保険などの金融ソリューションを提示するなど、ECと銀行機能、ケアと保険機能のように他業務を組み合わせたサービスの提供によって、顧客が必要とする時にサービスを迅速に提供できる。さまざまなアプリを統合したスーパーアプリでも、IDを共通にし、直感的なUIや統合した金融ツールをプラットフォームとして組み込むことで、顧客に利便性を提供している。

業務のインフラやアプリの提供

 Fintech機能を実現するためのインフラや機能を提供する。ブロックチェーンや銀行機能のAPIなどを提供する。

暗号通貨の提供

 暗号通貨は、投資から日常のデジタル通貨としての活用が広がりつつある。例えば暗号通貨を使った送金サービスなどである。

変革が新たなデータを生み出し次の変革につながる

 上述したようなビジネスチャンスを基に生まれる新規ビジネスは、金融業務を大きく変える。通貨のデジタル化に合わせた、データを活用した新規ビジネスも広がっていく。ただし、金融サービスには、さまざまな規制がある。それら規制に従う必要はあるが、規制の変革も必要になるだろう。

 これらのデジタル機能を使うためには、ネットワークやアプリが不可欠であり、それらの信頼性や可用性の実現が重要になる。スマホが処理の中心になるが、アプリが稼働するスマホ等の環境を貧困層にも提供するための環境も必要だ。

 Fintechの進化と同時に、個人の意識も変わらなければいけない。例えばサイバー犯罪が急増している。2023年に漏えいした個人情報は前年の約7倍の4090万8718人分だった(東京商工リサーチ調べ)。偽サイトに誘導しIDやパスワードを盗むフィッシングも増えている。2024年4月の1カ月間に報告された海外を含むフィッシング件数は、前月より9594件増加し、10万6757件だった(フィッシング対策協議会調べ)。

 そうした中でFintechのサービスを安心・安全に利用できるようにするには、サービス提供者が顧客の身元や実在性、連絡先を確認する「KYC(Know Your Customer)」と呼ばれる個人認証や、利用者自身がセキュリティのリテラシーを高める必要がある。

 デジタルは、さまざまな業務を結びつけ、顧客に新しい価値を提供する。そうした変革は続き、さまざまな産業が銀行機能を提供するようになることで、生活と銀行機能が結びつく。銀行機能の統合も進む。決済や投資、融資といった機能がFintechにより統合され、そこから生み出されるデータを使った生成AIの活用により、さらなる変革が続く。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。