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キャッシュレス化がFintechのイノベーションを加速する【第81回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年6月17日

金融領域におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は「Fintech」という分野を生み出し、さまざまな仕組みや新しいビジネスで業界を変革してきた。その1つにデジタル通貨がある。今後は、その価値の安定を意図して設計された暗号通貨である「ステーブルコイン」や、中央銀行が発行する「CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)」などにより、キャッシュレス化が、さらに進んでいく。今回は、キャッシュレス化とFintechのこれからを考えてみたい。

 日本におけるキャッシュレスによる決済比率は、2021年が31.5%、2022年は36.0%、そして2023年は39.3%と順調に伸びている(経済産業省調べ)。その内訳は、クレジットカードが83.5%、電子マネーが5.1%、デビットカードが2.9%。2018年から利用されているQRコード/バーコード決済は8.6%である。

金融領域におけるデジタル化がFintechを進化させる

 通貨のデジタル化は、非接触で、釣りなど現金のやり取りを不要にする。結果、現金インフラを維持するために必要な紙幣の印刷や輸送、店舗での準備、ATM(現金自動預払機)の費用、関連する人権費などで年間1兆円、ATMの運用や、その人件費で年間6兆円を削減できる。

 またタッチ決済は、タッチ決済対応のクレジットカードやスマートフォンなどで決済用端末にタッチするだけで完了するため、スピーディな決済が可能になる。カードを店員などに渡す必要がないため、セキュリティや衛生の面でも安心して使える。

 キャッシュレス化には生活自体のデジタル化も影響している。スマホを使う処理が中心になり、EC(電子商取引)の広がりによってクレジットカードの利用が増えた。スマホ用アプリケーションを使って銀行口座を管理し、振り込みや送金ができるようになるなど、決済や金融分野における生活のデジタル化が進んでいる。

 こうした金融領域におけるデジタル化がFintechをさらに進化させ、さらなる変革につながっていく。Fintechへの投資額は、2022年の990億ドル(約14兆8500億円。1ドル150円換算、以下同)が2023年には512億ドル(約7兆7000万円)へと48%も急落した(英Innovate Finance調べ)。これには金利の動向や、戦争や市場の先行きへの懸念が影響している。

 しかし今後、非接触や非対面によりFintechは加速する。その市場規模は、2030年に1兆5000万ドルに達し、2021年比で6倍になると予想されている(米CB Insights調べ)。特にアジア・太平洋地域の成長が著しく、2030年には北米市場を越え、世界最大のFintech市場になると予測されている(同)。

 『金融業界を揺さぶるFintechの今【第65回】』」で述べたように、Fintechという形で、銀行や保険業務、投資や資産管理などの改革に加え、さまざまなビジネスが生まれ成長している。

 具体的には、仲介者をなくした「Defi(分散金融)」、暗号通貨の投資から日常の通貨としての活用を目指す「ステーブルコイン」、中央銀行が発行する「CBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)」、直感的なインタフェースや包括的な金融ツールを組み込んだ「デジタルバンク」、通常のサービスと金融サービスを結びつけた「エンベデッドファイナンス」、「BNPL(Buy Now Pay Later)」と呼ばれる後払い、生成AI(人工知能)技術を使った顧客サービスのパソナライゼーション、不正検知やリスク管理の変革などだ。

Fintechのユニコーンのトップ5は米国企業

 Fintechの現状をユニコーン(評価額10億ドル以上の未上場企業)企業の活動内容から見てみたい。表1は2023年第4四半期のユニコーン企業のトップ5である。それぞれの概要を紹介する。

表1:2023年第4四半期のユニコーン企業のトップ5(米CB Insightsの『State of Fintech』を元に筆者が作成)
順位会社名最新の評価額
1Stripe米国500億ドル
2Revolut英国330億ドル
3Chime米国250億ドル
4Ripple米国150億ドル
5Devoted Health米国129億ドル

米Stripe

 金融サービスおよび決算処理ソフトウェアとAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を提供するSaaS(Software as a Service)企業である。機能の豊富で使い勝手の良いソフトウェア機能を提供し、支払いや売り上げの管理を容易にする。世界の数百万社が利用する。

英Revolut

 銀行業務を代替する金融系スーパーアプリを提供する。タッチ決済に対応した無料の多通貨対応カードを提供し、モバイルアプリから送金と支払い、両替ができる。さまざまな通貨に対応し、即時送金やアプリ内でのRevolutレートによるリアルタイムでの両替が無料でできる。

米Chime

 米連邦預金保険公社(FDIC)の認可を受けたチャレンジャーバンクである。ほぼすべての顧客がモバイルで口座を開設している。残高がマイナスでも数日中に支払えばよい機能や、給与を2日前に受け取れる機能の提供など、個人の需要に合わせたサービスを提供している。

米Ripple

 分散台帳技術を利用した決済システムを開発する企業である。暗号資産「リップル(XRP)」を使い、主に金融機関を顧客に、安価で迅速な送金を実現し、国際送金における送金時間や手数料の問題を解決している。

米Devoted Health

 在宅ケアとメディケア保険を組み合わせたヘルスケア企業である。14万人以上の会員にサービスを提供している。