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エッジコンピューティングが現場のDXを加速する【第82回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年7月22日

米Microsoftの「Copilot PC」や米AppleのiPhone等へのApple Intelligence搭載など、エッジデバイスへのAI(人工知能)機能の搭載が広がりつつある。PCやスマートフォンだけでなく、産業用途でも種々の機能のエッジ化が始まっている。今回は、現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進めるエッジコンピューティングについて考えてみたい。

 PCやスマートフォンなどエッジデバイスへのAI(人工知能)機能の搭載が広がりつつある。米Microsoftの「Copilot PC」や米Appleの「Apple Intelligence」は、PCやスマホへのエッジコンピューティング機能の展開例だ。個人が使うデバイスのエッジ化は、応答性を高め、AIの機能をより使い易くするとともに、個人の情報管理やプライバシー保護の観点も考慮されている。

 Copilot PCでは、生成AIを「Windows Copilot Runtime」という形でPC上に常駐させ、PC上で動く基本ソフトウェア(OS:Operating System)やアプリケーションが随時、その機能を利用できる。クラウド上の「GPT(Generative Pre-trained Transformer)」とも連携できる。この実装により、メッセージの要約や自分で描いた絵の加工、ゲームへのアドバイスといった生成AIによる機能を、アプリケーションそれぞれが持つことなく実現する。

 一方のApple Intelligenceは、利用者の文章作成力を高め、効果的なコミュニケーションを図れるようにする。具体的には、文章の書き直しや校正、要約やEメールの管理・要約、返信文を提案するスマートリプライ、メモアプリと電話アプリに対する音声の録音・書き起こし・要約および画像の作成である。

プライバシーの保護やデータ量への対応などのメリットがある

 こうしたエッジへの機能展開によりAIは、さらに身近になり、さまざま生活や仕事を変えていく。エッジコンピューティングが求められる背景には、応答時間の短縮や情報管理の観点などが挙げられる(図1)。

図1:エッジコンピューティングの必要要件

プライバシーとセキュリティへの保護

 利用者自身のデータをエッジデバイスで処理することで、個人情報や生体情報などをクラウドに送信することなく、個人情報や重要なデータの取り扱いを特定デバイスに限定できる。

データ量の急増への対応

 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)による接続数が増えており、それに伴うデータの収集や活用が活発になっている。

 大量のIoTデバイスからデータを送信しクラウドで処理したり巨大なデータを扱ったりする場合、データの送信量がネットワーク品質に影響を与える可能性がある。コストの増大化の懸念もある。特にリアルタイムな監視などでデータを流し続けるようなケースではデータ量が膨大になる。データが巨大であれば、データが破損した場合の対処を考えなければいけない。

 このような場合、エッジによる処理として、フィルタリングやエッジへの保存によって送信するデータ量を削減したり、IoTゲートウェイを使って複数のデバイスから取得したデータを一時的に収集してサーバーに送信したりすることが有効である。

低遅延処理への対応

 収集したデータを迅速に処理する必要がある業務では、応答時間がキーになる。クラウドに送信して処理するのでは、ネットワークの不安定性から遅延が発生する恐れがあるが、エッジで処理すれば、その心配がない。

 例えば自動運転のようにデータに基づいた意思決定を迅速に処理するケースや、工場での工程の監視や制御など、リアルタイム性が重要なものに関しては、エッジデバイスによって処理するエッジコンピューティングが有効になる。

帯域の制限やオフライン処理への対応

 ネットワークの帯域に制限がある場合、またネットワークの不安定性や障害によってオフライン処理が必要な場合もエッジコンピューティングであれば対応できる。