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ユニークなUXやデジタルツインへの適用が期待されるメタバースの現状と今後【第87回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年12月16日

仮想空間と、その中でのビジネス展開

 仮想空間中で自由に活動できる場を提供するサービスが広がっている。「Minecraft」や「あつまれ どうぶつの森」などだ。ゲームの中でメタバースを使いコミュニケーションの場やバーチャルイベントを開催できる「Fortnite」、VR上で世界中の人とコミュニケーションが取れる「VRChat」などもある。

 「Decentraland」は、暗号資産を使ったWeb3プラットフォームによって仮想空間を提供する。同空間にブースや仮想店舗を設けバーチャルなモノやリアルなモノを販売する例も増えている。NFT(Non-Fungible Token)を使ったコンテンツの売買も行われている。

ゲーム、エンタテイメントでの活用

 メタバースを取り込んだゲームには、上述したFortniteのほか、「Roblox」や「ZEPERO」「Cluster」などがある。FortniteやRobloxのユーザー数は数億人に上る。エンタテイメント領域でも、メタバースを活用したバーチャルライブやコンテンツ配信が注目を集めている。視聴だけでなく、3次元空間上でインタラクションを交えた体験ができるサービスも現れている。

ユニークな顧客体験の提供

 商品の販売サイトで、商品に関連した旅をVRで提供するサービスや、メタバースによって商品のオンライン販売を強化するサービスが生まれている。例えば米NIKEは、「Nike Fit」と呼ぶ靴のサイズの自動測定サービスを提供する。AR(Augmented Reality:拡張現実)技術を使って足をスキャンしサイズを割り出す。他にも、洋服の試着や、家具の設置場所のシミュレーションといったサービスも出てきている。

新しい顧客接点へのシフト

 顧客接点へのメタバース適用もある。既存のWebと比べリッチな情報を提供でき、場所や時間に縛られない、商品/サービスの販売や経験を提供する。バーチャルな店舗や顧客サービスを提供する企業や、より直感的で没入感のある体験を提供しブランディングに役立てる企業が登場している。

ユニークなサービスの実現

 危険な場所や、訪れるのが困難な場所への旅行をメタバースで体験させる。実際には実現ができなかったり難しかったりすることを仮想空間上で経験できる。

バーチャルモデルやアバターを使ったブランディングや接客の改革

 バーチャルモデルを使ったブランディングや、アバターが接客するサービスが生まれている。

コミュニケーションの変革

 メタバースにより、より臨場感の高いコミュニケーションを実現することで、Web会議やコミュニケーションのあり方を変革する。そのためのプラットフォームには、Metaの「Horizon Workrooms」や米Microsoftの「Mesh for Microsoft Teams」などがある。

トレーニング、教育の改革

 メタバースを使って、より没入感がある経験を提供することで教育やトレーニングに生かす。作業の習得や、危機管理ケースなども経験できる。

産業界ではデジタルツインを使った変革に期待

 これらの応用例以上に、産業界で期待されるのがデジタルツインへの適用である。デジタルツインは、現実空間のデータを基に、仮想空間に現実モデルを高精細に再現した仮想モデルであり、モニタリングやシミュレーション、共有によるコラボレーションを可能にする。実際にモノや建物、都市などを作る前に、デジタル上で構築することで迅速な評価・検証ができる。

 評価・検証の結果に基づいて物理的に構築すれば、成果物の品質向上や廃棄物の削減、エネルギー消費の低減などを図れる。現場の現状をデータとして取得しデジタルツインに上げれば、現場の状況把握や確認がデジタル上ででき、モニタリングや変更、改善に使える。

 デジタルツインの応用範囲は広く、車両の設計製造、倉庫や流通、建物やインフラ、航空機、都市全体、交通やエネルギーの最適化、健康状態の把握・治療などで既に利用が始まっている。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂のように、混雑や時間を気にせずに体験できるバーチャル見学サービスをデジタルツインによって提供しているところもある。

 デジタルツインを構築するためのツールやドローン、カメラ、LIDAR(Light Detection And Ranging)などが進化し、3Dモデルの作成方法なども進化している。GPU(Graphic Processing Unit:画像処理装置)の普及や5GやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)といったネットワークの広がりによって、デジタルツインの活用は、さらに広がるだろう。

 これらの事例が示すように、メタバースの仮想空間の応用、メタバース技術の応用によって、顧客との接点やサービスに関する変革や新しいビジネスモデルが生まれている。この流れは今後も続いていくであろう。

 生成AIによる影響も大きい、生成AIはモデルやコンテンツを自律的に作成する機能を持つ。コンテンツを自動で作成したり、デジタルツインと組み合わせたりすることで、効率やパフォーマンスの最適化が可能になる。生成AIのチャット機能や翻訳機能は、顧客接点の変革に応用できる。

 これまでのメタバースはスマートフォンやPCでの利用が中心だった。今後は、進化したHMDにより長時間の装着が可能になりキラーコンテンツが現れれば、ビジネスの領域でも3Dの世界が広がっていくだろう。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。