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- 大和敏彦のデジタル未来予測
ユニークなUXやデジタルツインへの適用が期待されるメタバースの現状と今後【第87回】
『メタバースがもたらすインパクトとビジネスチャンス【第51回】』で取り上げたように、米Facebookが社名を米Meta Platformsに変更したことでメタバースへの大きな期待が広がった。しかし、『「Apple Vision Pro」などHMDの進化がメタバースの利用を加速する【第78回】』で触れたように、大企業の撤退やMeta自身のメタバース事業の赤字などが示すように、期待ほどには普及に至っていないのが現状だ。今回は、メタバースの現状とともに“今後”を考えてみたい。
メタバースの世界市場規模は、独調査会社のStatistaによれば、2024年に747億ドルに達し、2030年には5078億ドルになる。この間の成長率は年率37.7%である。米マッキンゼー・アンド・カンパニーが2022年6月に発表した「2030年時点の提供価値は5兆ドル」という予測からは遅れているものの、確実に市場は広がっている。
米アーンスト・アンド・ヤングが2023年に実施したテクノロジーエクゼクティブへの調査では、今後投資を増加させる対象として52%がメタバースを挙げた。サイバーセキュリティ(78%)、ビッグデータ解析(62%)、5G(62%)、生成AI(58%)に続く位置で、重要な投資分野として認識されている。今後もメタバースの機能を活用した種々の応用がビジネスモデルや事業変革を実現し、価値を生んでいく。
Metaは業績悪化もメタバースへの基本姿勢は変えず
では、メタバース加速のきっかけを作った米Meta Platforms(Meta、旧Facebook)の現状はどうか。同社は2022年11月から2023年3月までの間に業績悪化による大量のレイオフを実施している。2024年第3四半期の決算では、利用者数が32.9億人と前年度から5%しか増加せず、収益は405.9憶円と前年度の402.9億円からの微増にとどまり、市場の期待を下回った。
一方で、AI(人工知能)戦略の実行に必要な技術インフラを提供するため、米NVIDIAのサーバーに数十億ドルを費やすデータセンターの改良と増設など、生成AI技術に注力した巨額の投資を実行している。
メタバースに関するReality Labs Hardware Unitの業績は、2024年第3四半期の売上高は前年度比で29%増であるものの、44億ドルの営業損失を計上している。ただ、メタバースの3D(3次元)表示に使うHMD(Head Mount Display)の売れ行きは好調だ。同社「Quest」シリーズの累積販売台数は2000万台を越えた。HMD市場も2023年に全世界で前年度比30%の伸びを示し、その中でMetaがシェアを伸ばしている(米IDC調べ)。
Metaは、デバイスに関しては、次のような戦略で応用を増やし、エコシステムパートナーを増やすことでプラットフォーム化を進め、さらなる強化を狙っている。
戦略 :Meta Quest向けのデバイス用基本ソフトウェア(OS:Operating System)である「Horizon OS」をサードパーティに開放する
→ Horizon OS向けアプリケーションのオープンな販売ストア「Horizonストア」を構築する
→ Meta Quest向けのコンピューターに指示を与えるリストバンドなどのデバイスの開発を進める。
HMDに関しては、より小さく、より軽く、より長時間の使用が求められている。しかし、2024年4月に公開された米Piper Sandlerの調査では、アメリカのZ世代の30%以上がすでにVR(Virtual Reality:仮想現実)機器を所有している。ビジネスでもキラーアプリケーションが登場すればHMDの活用が広がる可能性がある。
また、米AppleのHMDである「Vision Pro」は、「空間コンピューティング」を実現する、より高品質で高価なデバイスと考えられており、コンピューティングの新しい概念を提供しようとしている。こうした流れが、3DやHMDのビジネスへの応用につながる可能性を高めている。
Metaは「Metaは人と人がメタバースでつながる未来を信じています」というメッセージを掲げ、さまざまに活動する未来のプラットフォームになるという考えを変えていない。
将来的にはメタバースが、検索エンジンやEC(Electric Commerce:電子商取引)、SNS(Social Networking Service)に続く“次なるキラーサービス”になり、人々がメタバース上でコミュニケーションやコマースなどを行うとする。そこに生成AIを組み合わせることで、メタバースの発展・普及に弾みをつけようとしている。