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生成AIが加速するGPU活用とデータセンターのGPU対応、そしてGPU as a Serviceへ【第88回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年1月20日

生成AI(人工知能)技術の活用にはGPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)が必要であり、GPUの需要が急速に高まっている。『生成AI需要がデータセンターへの投資を加速し新形態を求める【第80回】』で触れたように、生成AI活用がデータセンター需要をも加速している。電源容量を高めたAIデータセンターの構築やGPUの機能をサービスとして提供する「GPU as a Service」の動きだ。今回はGPUにフォーカスしGPUを取り巻く現状と今後を考えてみたい。

 GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)は、グラフィックスなどの画像描写などの計算を処理する半導体チップである。CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)が処理を順次実行するのに対し、GPUは並列処理により反復計算などを高速に実行できる。

 GPUの世界市場規模は、2023年の652.7億ドルが2029年には2742.1億ドルへと年平均成長率33.2%で成長するとみられている(独Statista調べ)。2024年時点では、GPU市場の90%近くのシェアをNVIDIAが占めており、需要に供給が追い付いていない

 もともとGPUは画像処理専用だった。米NVIDIAが開発した「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」と呼ばれるプログラミングモデルによって、科学計算やデータ解析、シミュレーションなど、より汎用的で広範囲な用途に対応できるようになった。近年のNVIDIAは、GPUを種々の用途への応用を加速するために、次のようなソリューション環境も開発している。

AI Enterprise :動作検証したAIライブラリの組み合わせをコンテナ化し、AIアプリケーションの開発と利用開始を迅速にする
NVIDIA Clara :創薬、医療機器開発、医療画像活用、協業ゲノム解析などのためのAIアプリケーションの開発・実行環境を提供する
Omniverse :デジタルツイン環境を提供する。メタバース上での協業や仮想工場を実現し、開発や製造の変革を実現し、製品や機器、プロセスの設計をシミュレーションによって最適化を図る。自動運転分野に対しては、車載コンピューターや自動運転ソフトウェアを開発するためのシミュレーターを提供する。

AIやデジタルツイン、シミュレーションなど活用分野が拡大

 GPUを使って何が可能かを見てみたい。図1にGPUの活用分野を示す。

図1:GPUの活用分野

AI・機械学習・ディープラーニング

 機械学習やディープラーニング、画像・音声認識、自然言語処理に使われる。GPUの活用を急加速させたのが生成AIだ。生成AIのコアとなるLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)には、その性能が学習に使うデータの規模や計算量、モデルのパラメーター数によるという「スケーリング則」があり、性能向上には大規模なコンピューター資源が必要になるからだ。

 実際、米OpenAIが2022年11月に公開した初期の「ChatGPT」には、1万基のGPUと28万5000基のCPUからなるコンピューター複合機が使われた。生成AIの活用が広がるにつれ、その精度を高めるためにGPUの使用が加速するという流れが生まれた。生成AIの活用は、さまざまな分野で応用が進んでいる。

CG、VFX、デジタルツイン、シミュレーション

 映画におけるCG(Computer Graphics)やVFX(Visual Effects:映像効果)、それらを応用するメタバースのUX(User Experience:顧客体験)、デジタルツインを使った建築や製品設計などを活発化させている。物理シミュレーションやデジタルツインの検証、テストシミュレーションにも使われている。

ゲーム

 GPUによる高画質な映像処理の高速化が可能になり、リアルな3D(3次元)映像を使ったゲームを開発できる。VR(Virtual Realty:仮想現実)技術を使ったゲームの作成も可能にした。

画像・動画生成・編集

 画像や音声のエンコード、映画や動画の作成、画像生成や音声合成に貢献している。

暗号通貨マイニング

 暗号資産のマイニングにも高い計算能力が求められる。

 これらの用途は、機械学習やディープラーニングによるデータ分析や自動化、3D動画や表示によるメタバース、3Dとシミュレーションを活用したデジタルツインの活用など、企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためのツールになり、これらの機能を使ったDXが進んでいる。