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- 大和敏彦のデジタル未来予測
SDV(Software Defined Vehicle)など“コネクティッド”による変革が広がる【第89回】
IoTデバイスの数は2030年に全世界で321億台を超える
スマホに続き、自動車のようなソフトウェアデファインドな製品が増えることで、データ活用やDXが進展する。その基盤である“コネクティッド”を実現するための中核技術の1つがIoT(Internet of Things:モノのインターネット)だ。
独調査会社のStatisiaによれば、IoTの世界の市場規模は、2025年に4453億ドル、2033年には9340億ドル以上に達すると予測されている。IoTデバイスの全世界の接続台数も、2023年の159億台が2030年には321億台以上に増加するという(同)。
現時点で1億台以上のIoTデバイスが接続されている業種は、電気、ガス、蒸気・空調、水道・廃棄物管理、小売・卸売、運輸・倉庫、政府である。2033年までにIoTデバイスが10億台以上になるのは、スマホのほか、ITインフラ、資産追跡・監視、スマートグリッドだと予測する。
このようにIoTデバイスは、さまざまなところで活用されている。そうしたコネクテッドなデバイスを活用し、収集したデータを分析することでビジネスの効率化や自動化、新ビジネスなどの変革につなげられる。
IoTデバイスの増加にはネットワークが不可欠だ。中国では、5Gの基地局数が430万を超え、その5Gを使った屋外や日本のローカル5Gに相当するプライベート5Gを使った変革が進む。2033年には80億台の消費者向けIoTデバイスが出回ると予測されている。
ネットワークは5Gからさらに6G、低軌道衛星通信サービス、LPWA(Low Power Wide Area network)などの進化を続け、コネクティッドの実現を助ける。コネクティッドを支えるネットワークが実現すれば、そのネットワークを使って、当初目的としたデータ収集や制御だけでなく、他のデータ収集や新しい機能の追加も可能になる。
例えば、日本のベンチャー企業であるフォーステックが手掛けるスマートゴミ箱「SmaGO」は、ごみ箱をIoT接続することで、ごみ箱に貯まったゴミの量を感知し、ごみ回収の効率化やコスト削減を実現する。このデバイスをソフトウェアデファインド化されたコネクティッドデバイスとみれば、5Gの基地局化やデジタルサイネージの表示、人流データの取得といった使い方も考えられる。
複雑なプロセスを対象にするデジタルツインへとつながる
コネクティッドにより変革が起こる分野を見てみたい。
データ活用
各種センサーが日々、進化している。画像・イメージ、音、温度・湿度、光・日射量、距離、圧力、加速度、ジャイロなどのセンサーにより、さまざまなデータの収集が可能である。これらデータを集積・分析することで、これまでシステム化が難しかったことも実現可能になる。データ活用も、例えば位置情報は、来店分析や人流分析、交通分析などに使える。さらに応用として競合分析や観光分野での活用が考えられる。
進化した、さまざまなセンサーは、ウェアラブル端末に搭載されヘルスケア分野での活用が進む。デバイスやソフトウェアによって病気の早期発見や予防に役立っている。AI(Artificial Intelligence:人工知能)技術の進化は、画像などの非構造化データからも学習や分析を可能にし、ますます応用範囲を広げる。
モニタリングおよび状況対応の自動化
センサーやカメラによって、リモートからのモニタリングが可能になる。モニタリングにAI技術を組み合わせれば、状況判断や制御、自動化へとつなげられる。自動運転のように、センサーから収集したデータを基にロボットやスマート機器を状況に応じて動作させることも可能になる。
例えば中国では、IoTとAIを組み合わせて交通を取り締まる「「電子警察」と呼ぶ仕組みが稼働している。信号を無視する歩行者や自動車を見つけ、違反した歩行者には音声で警告し、自動車は録画し電子掲示板に流す。AI技術による顔認証を使って違反者を特定し、画像を証拠に罰金の支払いを命じている。
デジタルツイン
単体の制御やモニタリングにとどまらず、より複雑なプロセスをデジタルで再現し、設計やモニタリングに使用する。特に製造業では、工場やプロセス全体をデジタルツイン化したモニタリングや制御が始まっている。この動きが複数工場やサプライチェーンを含めたネットワーク化につながり、自動化や省力化、品質向上、コスト削減、スピードアップなどの実現が期待される。
例えば自動車メーカーの独BMWはデジタルツインを使って、製造工程の効率化や標準化を図っている。中国の長安汽車は、チャイナユニコムやHauweiと共同で自動化率100%の工場を設立したと発表している。1400体のロボット、650台のAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)やスマート設備、ワークステーションと5Gを使っている。
コネクテッドな世界は相互につながり全体最適化に向かう
このように増加するIoT機器だが、その展開で留意しなければならないのがセキュリティである。『サイバー攻撃が狙うIoT機器の現状と、その活用が引き起こす変革【第79回】』でも述べたように、IoT機器を狙ったサイバー攻撃が増えている。サイバー攻撃は、IoT機器の停止、不正操作、データの盗難だけでなく、IoT機器を不正に操作するボットとして悪用されるケースもある。
実際、2024年12月には、日本航空(JAL)と三菱UFJ銀行が、大量のデータを送り付けるDDoS(Distributed Denial of Service attack)攻撃を受け、システム障害が発生するなど利用者への影響が出た。IoTデータの扱いにも注意が必要だ。プライバシー保護には、個人情報の集計化、非特定化などに取り組む必要がある。
コネクティッドにより、キャッシュレス化やEV化などの変革が実現されている。個別のIoT展開から、全体最適化を図るデジタルツインの世界につながっていく。これらの動きは今後、加速し、さまざまなセンサーが接続され、コネクティッドデバイスがエッジコンピューティングとして複合機能を持つ。
そうしたネットワークが神経網になり、クラウドやデータセンターのAI技術と組み合わさり、自動化・省力化をさらに推し進める。その世界では、デバイスと、ネットワーク、セキュリティが不可欠になり、データの扱いに注意が必要になる。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。