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SDV(Software Defined Vehicle)など“コネクティッド”による変革が広がる【第89回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年2月17日

さまざまな機器がネットワークでつながる“コネクティッド(つながった)”な世界が広がっている。リモートから機器をモニタリングしたり、それらの機器から上がってくるデータの分析や生成AI(人工知能)モデルの学習による自動化や効率化などのDX(デジタルトランスフォーメーション)に使われたりしている。今回は、コネクテッドな世界におけるDXについて考えてみたい。

 “コネクティッド(つながった)”な世界感の最も一般的な例はスマートフォンだろう。米アップルの「iPhone」登場以降、電話の概念は大きく変わった。さまざまなスマホ用アプリケーションが登場し、メールやメッセージの交換、EC(電子諸取引)サイトでの購入、各種決裁などがスマホ上で完結する。

 例えば最近では、JR東日本がスマホ用の「モバイルSuica」を活用し、鉄道の改札を通る際にタッチレスで通過を認識して改札ゲートを開ける仕組みを導入しようとしている。コネクテッドなスマホ用アプリで乗車賃を課金する。

 このようにスマホは、コネクティビティ変革で重要な位置を占めている。しかしスマホ市場は、そのコモディティ(日用品)化とともに飽和状態になっており、今後の市場の大幅な成長は期待できない。

コネクテッドにより自動車の“ソフトウェアデファインド”化が進展

 スマホの技術や仕組みを生かす次のコネクテッドなものとして注目されているのがEV(Electric Vehicle:電気自動車)だ。自動車業界は今、CASE(Connected:つながった、Autonomous:自動運転、Shared & Services:共有とサービス化、Electric:電動化)による変革が進みつつある。

 『テスラに見る“デジタルネイティブ製品”がもたらす市場価値【第35回】』で述べたように、EV最大手の米Teslaは自動車用ソフトウェアを無線で更新する機能の提供で先駆けだ。新機能の提供や性能向上をソフトウェアの変更で実施でき、自動運転などの運転支援機能や新しいエンターテイメント機能などを提供する。そのソフトウェアは「OTA(On The Air)」と呼ぶネットワークにより入れ替えられる。

 ソフトウェアによって製品の価値が決まることを「ソフトウェアデファインド(定義)」と呼ぶ。ソフトウェアデファインドにより自動車はSDV(Software Defined Vehicle)になり、開発から製造、保守までが大きく変わる。自動車の所有者もハードウェアを変えることなく、ソフトウェアによって最新機構を使えるようになるため、自動車の販売モデルも変わる。

 さらに自動運転が実現すれば、車中の娯楽などの機能が重要になり、ソフトウェア販売ビジネスが成り立つ。CASEの実現には、スマホに使われているデバイスやテクノロジーを活用できる。そのため自動車業界には、スマホ業界など業界外からの参入が続いている。ソニーとホンダが折半して作ったソニー・ホンダモビリティは、その1社だ。

 ソニー・ホンダモビリティは、2025年1月に米ラスベガスで開催された世界最大規模のテックイベント「CES(Computer Electric Show)」で、「AFFELA」と呼ぶEVの発売を発表した。AFFELAは自動車の運転環境をソフトウェアによって変革している。ソニーの参入により、社内の音響環境の向上や、対話型パーソナルエージェント、スマホ用サービスでもある「Amazon Music」や「Audible」などのサービス利用などが可能になる。

 Appleは自動車進出を断念したが、スマホメーカーによる車載用OS(Operating System:基本ソフトウェア)への進出が進んでいる。米Googleの車載OS「Android Auto」は、PCやスマホで培った技術を自動車でも使えるようにする。「Googleマップ」ベースの最新の地図情報、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)や交通情報通知、目的地候補のあいまい検索、電話との接続、音楽視聴などの機能を自動車内に持ち込んだ。

 中国のスマホメーカーもEV市場に参入している。中国シャオミが発売したEV「シャオミ SU7」は、同社製スマホと同じ「HyperOS」を搭載し、スマホの環境をそのまま車内のディスプレイ上で利用できる。中国Hauwei(ファーウェイ)は、自社では車は製造せず、車載OSや運転支援といった技術のサプライヤーを目指しており、スマホなどに使ってきた「Harmony OS」や、ADS(Autonomous Driving System:自動運転システム)をリリースしている。