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- 大和敏彦のデジタル未来予測
ネットワークとAIが支える医療DXの進展【第90回】
厚生労働省は医療へのAI活用に6つの重点領域を設定
医療DXにおいてもAIは重要なテクノロジーである。従来のシステム化は、アルゴリズムが分かった仕組みしかできなかった。だが機械学習や深層学習(ディープラーニング)の技術を使うことで、データの学習によるシステム化が可能になった。
このことは、幅広い分野にAIが適用できるということだ。実際、さまざまな分野で応用やトライアルがなされている。厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」は6つの分野を重点領域として挙げている(図1)。
ゲノム医療
ゲノム解析によりゲノム配列を分析することで治療の最適化や予防を図る。遺伝子情報や生体情報を使い、患者一人ひとりの遺伝的背景や生理的状態、疾患の状態などを考慮し、体質や病態に合った個別化医療が可能になる。病気を予測したり遺伝子治療につなげたりもできる。
画像診断支援
X線撮影やMRI、CTスキャンなどの画像をAI技術で読影することで、見つけにくかった悪性腫瘍やポリープなどを発見する。医師による読影のための時間を短縮したり、複雑な特徴を見つけ出し分類したりも可能である。
診断・治療支援
チャットによって診断や治療を支援したり、異常や症状から原因を推測したりができる。AIが支援することで、専門外の診断や治療も可能になる。医療ミスの防止や早期発見も期待できる。
医薬品開発
AI技術による成分分析により、創薬ターゲットを見つけ医薬品の開発に役立てる。AI技術の活用により医薬品開発の期間とコストの削減を図れる。
介護支援
介護支援計画の作成により、介護を必要とする人の生活の質(QoL:Quality of Life)の維持・向上と介護者の負担軽減を図れる。AI技術を使った見守りにより介護者の負担も軽減する。
手術支援
医療ロボットによって外科医の不足やスキル不足を補う。例えば2ミリメートルの施術を術者が1センチメートルの動きでロボットアームに伝えることで微細な手術が可能になる。術者は滅菌ガウンを着る必要もなく手術でき、術者の身体的負担を軽減できる。品質の高いネットワークを実現できれば遠隔地からの手術も可能になる。
テクノロジーの進化を見て応用することが新しい医療を生む
AI技術と、その応用は進化を続けており、AI技術によって実現できることが増えている。投資先にデジタルヘルスAIに焦点を当てる企業も増えており、資金調達額の42%を同分野が占めている(米CB Insights調べ)。AIに焦点を当てた大型投資案件には、診断、医薬品開発、女性の健康がある(同)。
今後も、ネットワークやクラウド、AIなどのテクノロジーを活用した医療DXによって、業務効率や生産性を高め、新しい方法や新しい患者への対応を実現する新しい医療が生まれてくる。テクノロジーは医師の力を強化し新しい治療や薬を生み出す。
テクノロジーの進化は、医療分野以外でも、さまざまな応用を実現し変革を加速している。AI技術の進化は続き応用分野も増えていく。それらの進化の様子を見ながら応用につなげ、正しく使っていくことがDXの成功につながる。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。