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人型ロボット(ヒューマノイド)との協働が始まる【第93回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年6月23日

産業用ロボットとの使い分けがなされる

 国際ロボット連盟の『World Robotics 2024』によれば、現在稼働している産業用ロボットは430万台ある。工場や物流の現場には自動化のために多くの産業ロボットが導入されている。この産業ロボットと人型ロボットを比較してみたい。

 産業ロボットは、特定の作業に合わせて、その形状や動作が最適化されており、高精度な高速動作が可能である。耐久性が高く長時間の稼働が可能で、安定性も併せ持つ。必要以上の機能はなくコスト効率も高い。一方で特定の作業向きに作られているため汎用性が低く、異なった作業への活用は難しい。自らは移動できないロボットが多く作業場所は限定される。

 これに対し人型ロボットは、動作の自由度が高く複雑な作業や細かい作業ができる。二足歩行で移動できるため、人と同じ空間への適応性が高い。動作速度や耐久性は産業ロボットには劣るが、AI技術による頭脳によって、さまざまな作業に適応でき汎用性が高い。

 こうした特徴から、人型ロボットの活用は、人が行ってきた作業の代替や、製品・製造プロセスの変化が激しいところにフィットする。画像認識を使った品質検査や危険な労働、重労働といった単調な作業にも使え、製造業や物流業における労働力不足の軽減に役立てられる。他にも労働力が不足している介護・医療などの分野で、人間と協業する形で利用できる。

 このように産業ロボットと人型ロボットそれぞれ強みがあり、それぞれの特徴を生かした使い分けがなされるだろう。人型ロボットが普及し、大量生産が始まり価格が低下すれば、家庭での活用も始まる。

 人と同じ形状をし、人と同じように行動や移動ができることは、家庭での活用におけるメリットとなる。家庭にロボットが入り、人との会話や掃除や料理、その他の作業を手伝うことが可能になり、家庭での介護や福祉の面でも役立つ。

ロボットが動きやすいインフラ整備も必要に

 人型ロボットは、人と同じ形態を持つため、人間向けに設計された空間や機器をそのまま利用できる。動作の自由度が高いため、人がやっていた作業の代替が可能である。音声を使った会話やジェスチャーなどのコミュニケーションも図れ、人との自然な会話や会話による支援もできる。関節やアクチュエーターやAI技術の進化によって、より複雑で細かい作業も実現できるようになった。

 これらの機能により、労働力不足が見込まれる工場や、介護・接客の現場、物流などの業界での人手不足の解消や、高温・高圧や放射能汚染地域など人が立ち入るのが危険な場所での作業の代替などから、人型ロボットの利用が広がっていく可能性がある。さらなるコスト削減が進めば家庭での活用も広がるだろう。ただロボットの活用が広がれば、次の課題への対応も求められる。

課題1:安全性

 移動や動作においては人を意識して安全に動く必要がある。AIモデルが学習し自律性が高まることで誤動作による事故や動作による危険が生じるリスクがある。停止機能など、人間と共存するための安全な設計が必要になる。動作への責任や倫理基準を明確にする必要もある。

課題2:プライバシー

 ロボットが搭載するカメラやセンサーによりデータを収集できる。そのデータが漏えいすれば、個人のプライバシーが侵害される可能性がある。そうしたデータの取り扱いには十分注意が必要である。公共の場所では、人型ロボットの導入により監視が進む恐れもある。

課題3:労働市場への影響

 人型ロボットによって労働力の代替が進むことで、製造業やサービス業では人間の仕事が奪われる可能性があり、社会的抵抗が広がる可能性がある。

 加えてロボットの利用が広がれば、ロボットが効率的かつスムーズに作業できる環境を実現する必要が高まり、そのためのインフラ整備が求められる。ロボットとインフラは今後、両者が適合し合う形で進化していくだろう。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。