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AI時代のUI(User Interface)/UX(User Experience)の進化【第95回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年8月18日

生成AI技術やデータ活用がUXを変えていく

 こうしたUXが今、生成AI技術やデータ活用によって、さらに大きく変化しようとしている。変革の例を図1に挙げる。

図1:生成AI技術やデータ活用によるUXの変革例

会話型インタフェース

 生成AI技術により、自然言語処理や対話機能が大きく進化した。これを活用したチャットボットや音声操作が使われ始めている。自動化による営業時間外の問い合わせ対応や、顧客との対話からの情報収集なども可能になる。音声によるインタフェースは、スクリーン上の文字に比べ情報量は低く、環境によっては聞き取りも難しい。これらの課題を今後、どう解決されるかが期待される。

パーソナライズ

 サイトやアプリ上での顧客の閲覧時間やスクロール速度、操作箇所などの行動データを収集・分析することで、個々の顧客に合った改善が可能になる。色やフォント、背景などのパーソナライズも図れる。個人が通常よく使う機能を優先して表示したり、視覚障碍者や高齢者が使い易いインタフェースに変更したりもできる。

 UIだけでなく、コンテンツのパーソナライズも可能だ。ECの購買履歴やアクセス情報を基に潜在顧客を見つけリコメンドするなどである。自動化も進む。AI技術による解析から、その人にとって最も使いやすいUIをリアルタイムに表示する技術もある。行動データの収集と分析は、顧客に合わせた改善を可能にし、個々の顧客に合わせたUXを提供できる。

予測

 顧客の行動履歴やリアルタイムのアクションから、次に必要な情報や要件を予測して提供できる。この予測の精度は生成AI技術により高まっている。自律的に顧客の要求に答えられるUXも生まれている。これらは、顧客へのインタフェースだけでなく、プロセスの効率化にも活用できる。

感情データの活用

 感情に応じたUIの変化や、ナビゲーションが可能になる。米OpenAIが開発するLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の「GPT4.5」では、モデル自身が感情的なニュアンスを学習できる。製品/サービスを利用する際の感情をデータとして収集し、それを元にUIを変化させたり、ナビゲーションしたりという新しいサービスの構築が可能になる。

UI生成の自動化

 生成AIやローコード・ノーコードなどの技術により、UIの自動生成も可能になってきている。顧客の行動を基に最適なUIをリアルタイムに生成することもできる。

 ここまで説明してきたような変化を先取りするポストスマホのデバイスも検討されている。生成AI技術により、システムが自律的に判断できることは増えるため、そうした機能を有効活用したUXやデバイスの登場が期待される。

 実際、OpenAIは「AI時代の新しいデバイスを提供する」(同社)予定である。そのためにAppleの伝説的デザイナーJony Ive氏が立ち上げたスタートアップの米ioを買収し「Apple時代の常識を覆すような形状・操作性」(同)を想定したデバイスを開発している。「環境や利用者の状況を認識するAI技術を搭載し、音声やジェスチャーで操作できるスクリーンなしのUIを持つ」(同)という。

人とシステムのコミュニケーションがますます重要に

 UXは人とシステムをつなぐものであり、AI技術の進化によってシステムの自律性が高まれば、柔軟性も増えUXも変わる。AI技術とデータ活用によってUI/UXは進化していく。機能の実現は重要ではあるが、それをどう顧客に使ってもらうかのUXの充実がなければ、その機能も十分には使われない。

 今後、デジタル技術の進化によって、さまざまなデータの活用が可能になり、システムの自律性が高まり、システムへの依存度が増えれば、人とシステムの関わり方も変化する。人とシステムのコミュニケーションがますます重要になり、それを実現するUXの進化も必要になる。

 例えば、自動運転車やロボットなど「フィジカルAI」と呼ばれる自律的なシステムが増えれば、それらへの支持やコミュニケーションをどうするかを考えなければならなくなる。さまざまな新しい使い方や機能が、簡単に、誰もが自身に合った使い方で使えるUXが期待される。

 一方でAI技術による自動化により、ブラックボックス化が進むことは問題だ。利用者が人である限り、ユーザー視点をもって人間らしさを失わないことが重要である。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。