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AIが加速するクラウドの高機能化と知能化【第100回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2026年1月20日

GPUサービスに特化するネオクラウドが台頭

 また『生成AIが加速するGPU活用とデータセンターのGPU対応、そしてGPU as a Serviceへ【第88回】』」で述べたように、GPUの必要性から、GPUサービスに特化したクラウド事業者である「ネオクラウド」も伸びている。

 ネオクラウドは、大規模なGPUを必要とする顧客に対し、高度な設定ができる可用性が高いサービスを、既存のクラウドプロバイダーより高速かつ安価に提供する。必要な量のGPUをオンデマンドで提供する「GPU as a Service」を提供する業者もいる。

 ネオクラウドの1社である米CoreWeaveは2025年、米国のベンチャー向け株式市場のNASDAQにIPO(Initial Public Offering:新規公開株式)し、時価総額は261億ドル(2025年12月19日時点)に上る。2025年に前年同期比3倍以上の急成長を遂げ、OpenAIとの戦略的契約や、米NVIDIAや米Metaなどとの大型契約など受注残も積みあげている。

 CoreWeave以外にも、米Lambda Lab、米Crusoe、オランダNebiusなどのネオクラウドが台頭している。LambdaはAI処理用ハードウェアの製造を含めた支援、Crusoeは再生エネルギーの使用など環境対応、Nebiusは欧州ベースなど、それぞれがGPUの供給力や開発者支援、環境対応、規制対応などを差別化要因にしている。

 ネオクラウド各社の決算を見ると、GPU供給力の実現には、AIデータセンターへの巨額投資が必要で、急速な拡張に伴う金利負担が重く純損失が続いてところもある。例えばCoreWaveは、2025年第2四半期には約29億ドルの巨額の設備投資により、2億9000万ドルの赤字になっている。今後のGPU活用の安定した伸びや収益性が注目される。

AIエージェントがマルチクラウド化やクラウド自体の自動化を求める

 GPUのクラウドサービスが増えることで、自社で必要とするAI利用のためのコンピュータ資源をクラウドから調達できる。クラウドの役割は、単なるコンピューターパワーの調達だけでなく、自社のDXを迅速に実現するためのツールとしての役割が高まっていく。

 『自律型のエージェンティックAIを目指すAIエージェントの姿【第99回】』」で述べたように、生成AI技術は進化を続けている。AIチャットやAIエージェント、RAGによりAI技術の活用は急速に進む。さらに、各種のアプリやサービスはAIエージェント化し、この流れを加速する。

 AIエージェント化は、ルールに基づく処理やデータ入力、複数業務をまたぐ処理などから進み、トランザクション処理やリアルタイム処理、複雑な意思決定が必要な処理などが対象になっていく。生成AIの進化によって仕事や企業の変革も進む。

 米Gartner は 「2029 年にクラウド計算資源の 50%が AI ワークロードに充当されると見込める」と予測している。その需要に応ずるために各クラウドは、AIチップの搭載に加え、LLMやRAG、AIエージェントの各基盤の強化を続ける。それにより次のような変化が起こる。

マルチクラウド化

 クラウドにより、さまざまなアプリやサービスが提供されており、それらを用途ごとに組み合わせて使うマルチクラウドの時代が訪れた。AI活用が進むことでもマルチクラウド化が進む。AIチャットやAIエージェントのプラットフォームになるLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)のそれぞれが得手不得手を持つからだ。

 例えば米OpenAIのLLM「GPT」は一般知識が豊富で推論力が高く、米Anthoropicの「Claude」は長文コンテキストに強い、米Googleの「Gemini」は翻訳や検索、マルチモーダル処理に強いなど、それぞれが強みを持っている。これらの強みからLLMが選ばれ、それを使えるクラウドが選択される。結果、複数のクラウドを使い分けるマルチクラウド化が進む。

 また必要なアプリが特定のクラウドでしか提供されていないこともある。DX(デジタルトランスフォーメーション)を効果的に推進するためには、これらクラウド自身の特徴と、その上のサービスによる差別化要因を組み合わせた使い方や、役割分担によるクラウドの使い分けがますます広がる。

セキュリティ強化

 クラウド自身のAI化も進み、ゼロトラストの実現や、セキュリティ対策・管理の自動化などによるセキュリティ強化が進む。利用者のセキュリティも強化され、社外に出すのが難しいデータを活用する仕組みの提供も必要性が高まってくる。

エッジコンピューティングとの統合

 クラウドに知能が蓄積され、その判断によって物理的な処理が実行される。そのなかでエッコンピューティングの重要性も高まる。5G(第5世代移動体通信)、6G(第6世代移動体通信)と続くネットワーク技術の進化と相まって、クラウドとエッジが一体化し、リアルタイム処理が実行されるようになる。

 製造・物流・農業・流通・医療・介護など、さまざまな領域にエッジコンピューティングが適用され、フィジカルAIと共にクラウドを中心とした統合管理がなされていく。

クラウドネイティブ化が小さくても強い組織を可能に

 大規模なLLMを事業会社が自社で構築・維持していくことは難しい。大規模なLLMを使うためにはクラウドが必要である。アプリはクラウド前提で設計され、開発・運用・改善がクラウド上で行われる。迅速性とコスト最適化を実現するクラウドネイティブ化が進む。

 クラウドの役割は、計算と業務処理データの蓄積を中心としたコンピューターリソースの提供から、知能の支援に変わる。クラウドの知能を使った仕事の自動化や業務処理の自動化が進む。AIやクラウドが重要なインフラになり、AI化を進めるツールや実行環境、およびコンピューターリソースをクラウドが提供する。

 AIの進化は、クラウドの知能化も加速させる。AIの継続的な学習によって知能を伸ばし、それを使って既存のシステムを置き換えるだけなく、推論を含めた知能化によって業務の自動化を進めていく。

 さらにエッジコンピューティングとフィジカルAIによる実作業の実施によって、コンピューターリソースだけでなく、物理的作業の自動化が進み、人は人がやらなくてもよい仕事から解放される。それにより会社の形も変わる。そこを見据えた方針などを意思決定することで、小さくても強い組織の構築が可能になっていく。そうなれば、クラウドの価値はさらに高まり、クラウドやAIへの依存度も高まっていく。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。