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日本に一人でも多くのCDOが誕生するために【第4回】

梅津 哲史(CDO Club Japan理事・事務局マネージャー)
2018年1月9日

CDO Club Japanは、デジタル変革の推進役であるCDO(Chief Digital Office:最高デジタル責任者)が日本の企業/組織に一人でも多く誕生することを目指している。全世界では、CDOの数は5000人を超えていると言われるが、日本では数える程度だ。日本に一人でも多くのCDOが誕生するために、CDO Club Japanは新たに3つの活動を開始する。

 日本の企業や組織にCDOを誕生させるための取り組みの1つは、経営層(CEO(Chief Exective Officer:最高経営責任者)に「組織にCDOを置く喫緊性・重要性・必要性を“自分ゴト”化してもらうための活動だ。そのために、「経営層向けのセミナー」を開催する。

決断を下すことはCEOにしかできない

 言うまでもないが、経営層(CEO)の決断がなければ、CDOというポジションは生まれない。デジタル変革は、組織の自己変革である以上、経営層による深い関与なしには成し遂げられない。部門単位の部分最適解とは異なる次元で改革を進める必要がある。

 「CEOがCDOを兼務する」ということも理屈のうえでは成り立つが、CEOは“今”動いているビジネスを見なければならないだけに、変革の推進役であるCDOを設置するのがグローバルな企業/組織の潮流だ。経営層向けセミナーの目標は、「デジタル時代の勝ち組となるための決断を下すのは、CEOである自分にしかできないことである」と気付く、すなわち自分ゴト化することだ。

 講師には、一橋大学 商学研究科の神岡 太郎 教授にお引受けいただいた。神岡教授の研究対象は、デジタル、データ、マーケティング、情報システムのそれぞれを企業全体としてどう機能させるか、それらが企業の競争力にどのように結びつくのか、どのように構造転換すべきかにある。結果、国内アカデミアにおいて、CDO(Chief Digital OfficerとChief Data Officerの双方)の重要性に最初に気づいた人物だと言える。

 実際、アジア初のCDOが置かれるよりも前の2012年に、公の会議でCDOについて発言されている。海外の組織(企業・行政)がCDOをどのような目的で設置し、どのような成果を挙げているかを継続して調査され、学会誌などに知見を発表されている。「デジタル時代の企業経営・組織運営のあり方-CDOの役割」に関する講演内容は、示唆に富む内容になるはずだ。

多岐にわたるCDOに求められるスキル

 2つ目の活動は、これからCDOを目指す方を対象に、CDOに必要な資質やスキルを学ぶための“場”の提供である。

 CDOに求められるスキルは、「データ活用の高度化」「ビジネス開発・デザインシンキング」「次世代技術の活用」「マーケティングの高度化」「人材育成・働き方改革」など多岐にわたる。これらのテーマについて順次、セミナーを開催していく。第1回は「デジタルに向き合う組織」、第2回は「顧客体験の変革」を、それぞれ開催する。

 「デジタルに向き合う組織」の講師は、元花王のデジタルマーケティングセンター長の石井 龍夫 氏である。石井氏は、花王の顧客理解やマーケティング活動にデジタルを活用するための「デジタルマーケティングセンター」を2014年に立ち上げ、2016年末までセンター長として種々のブランドコミュニケーションにおけるデジタル対応をけん引してきた。現在は、デジタルを基盤とする複数の企業の役員に就任されている。

 石井氏の経験に基づく講義は、マーケティング組織とデジタル組織はどうあるべきかといった問題意識を持つ方には、腹落ちするだろう。具体的には、デジタルマーケティングセンター設立の経緯や、経営層が求めるデジタルマーケティングに応える体制をどう整備してきたのか、センターのスタッフの資質やスキルの継承などである。

 一方、「顧客体験の変革」の講師は、ディライトデザイン代表の朝岡 崇史 氏である。朝岡氏は、「顧客体験(ユーザーエクスペリエンス)のデザイン」という考え方を多くの企業にコンサルティングしている。デジタルを補助線とした顧客体験について、理解を深められると考える。

 デジタル時代に求められるのは、この顧客体験の変革である。企業と顧客のコミュニケーションは、完全に顧客に主導権が移っており、顧客体験の優劣が企業や商品の競争力そのものを左右する。顧客体験を高めるためには、企業の商品/サービスの顧客体験を“デザイン”できなければならないのだ。

CDOの役割を啓蒙するサミットを日本で初開催

 最後は、日本で初開催となる「CDOサミット」の開催だ。「CDOの役割をより多くの人に伝える」ことと「CDOとのネットワーク/交流の場」を提供する野が目的である。

 2018年1月26日に開催する「CDO Summit Tokyo 2018」のハイライトは3つある。うち2つは、前回紹介した「CDO Summit Toronto」からの流れを受けた、カナダ・オンタリオ州のヘルス・スタンダーズ・オーガニゼーションのCDOであるエイミー・イー氏による特別講演と、CDO Summit Torontoの取材レポートおよびCDOインタビューの解説だ(関連記事『カナダ発、CDO Summit Torontoで出会ったCDOからの示唆』。

 もう1つは、日本のCDOをけん引する「Japan CDO of The Year 2017 ファイナリスト」の発表である。いずれも、現在活躍しているCDOが、それぞれの企業や組織において、どのようにデジタル化を進めているのか、目標達成のために何に取り組んでいるのかを本人から直接聞くまたとない機会になるはずだ。

 現在進行中のデジタル時代を経験した人はまだいない。デジタル改革の取り組みもCDOそれぞれで一様ではない。デジタル改革には、方程式はまだ存在しないし、これからも確立されないかもしれない。それだけに、より多くの事例を知ることに価値がある。

 そうした知見が得られる重要な“場”であるCDO Summit Japanでは、参加者それぞれが、自身あるいは自社にとってのデジタル対応は、どのようにあるべきか、どのように進めるべきかを自ら考えなければならない。CDOの設置をCEOしか決断できないように、デジタル化の方向の決断はCDOにしかできないのである。

梅津 哲史(うめづ・てつし)

CDO Club Japan理事・事務局マネージャー。外資系広告代理店にてグローバル企業担当後、マーケティング・リサーチ業界にてコンシューマー向け商品についての調査を多数実施。その後、企業の新規事業計画の立案、行政主催のCSR、サステナビリティに関するセミナーを企画・立案し実施してきた。