• Column
  • CDO CLUB発 世界のCDOは何を考え、どう行動しているのか

「Japan CDO of The Year 2017」を日本ロレアルの長瀬 次英 氏に授与【第5回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事 兼 チーフコミュニケーションオフィサー)
2018年2月5日

CDO Club Japanは2018年1月26日、アジア地域で初の「CDO(Chief Digital/Data Officer)Summit Tokyo 2018」を開催した。当日は、やはりアジア初となる「Japan CDO of The Year 2017」を受賞した日本ロレアルのCDOである長瀬 次英 氏による記念講演に加え、海外から招聘したCDOが現地での取り組みなどについて講演した。

 CDO Summitは、CDOの世界的な交流組織であるCDO Clubが世界各国で開催している会議である。情報の共有とネットワーキングのために多くのCDOが一同に会す。これまで、欧州や米国、オーストラリア、イスラエル、モナコなどで開かれてきたが、今回の「CDO Summit Tokyo 2018」は、アジアでは初の開催になる。定員150人に対し、メーカーや、銀行、保険、商社、小売り、インフラ、通信など種々の業界ならびに省庁・自治体から、200人を超える参加者が講演などに耳を傾けた(写真1)。

写真1:「CDO Summit Tokyo 2018」の会場の様子

アジア初の「CDO of the Year」を授与

 今回のSummitでは、もう1つのアジア初の取り組みが催された。その年に最も活躍したCDOを表彰する「Japan CDO of The Year」の紹介だ。CDO Clubは2013年から、CDO Summitにおいて毎年、1地域に1人の「CDO of The Year」を発表している。

 2013年は、米大統領にオバマ氏が就任した年であり、CDO of The Yearには「WhiteHouse.gov」の作成を担当したTeddy Goff氏が受賞した。2015年はスターバックスのCDOであるAdam Brotman氏が、2017年はIBMのGlobal Chief Data OfficerであるInderpal Bhandari博士などが受賞。ほかにも、オーストラリアのナショナルラグビーリーグや英国政府、ニューヨーク市など、NPOやNGO、政府/自治体などのCDOも受賞している。

 そうしたなかで、Japan CDO of The Yearを発表することは、「日本でもCDOが活躍している」ことの証になると同時に、デジタルトランスフォーメーションにおいてCDOが果たす役割について日本での認知度向上に貢献できると考える。
 Japan CDO of The Yearのファイナリストには、SOMPOホールディングス グループCDO 常務執行役員の楢﨑 浩一 氏、日本ロレアルCDO兼デジタル統括責任者の長瀬 次英 氏、三菱ケミカルホールディングス執行役員CDOの岩野 和生 氏がノミネートされていた。記念すべき第1回の受賞者は、日本ロレアルの長瀬氏に決定した。

 長瀬氏は、日本にCDOという名称・役職が定着していない2015年から日本ロレアルのCDOとして社内のデジタル化を推進されてきていること、ならびにCDO Clubの活動への貢献が顕著であるとの理由から選考委員が決定した(写真2)。

写真2:Japan CDO of The Year 2017を受賞した日本ロレアルの長瀬 次英 氏(左から3人目)と選考委員のメンバー

デジタルで顧客との距離を縮める

 Summitでは長瀬 氏による記念講演が行われた。長瀬氏は、これまでUnilever JapanやFacebook、Instagramなどで要職を歴任するなかで、「顧客ニーズに寄り添い『何が本当に必要とされているのか』を見極め、ニーズの変化や課題に迅速に対応することを心がけてきた」と話す。日本ロレアルに入社した際は、「お客様との距離が遠い」と第一に感じたという。

 その距離を縮めるために重要なことが"デジタル"だと指摘する。お客様をより知るため、お客様に近づくためにデジタル技術を活用する。すでに、商品をテレビや新聞でCMや広告で一斉に紹介しても顧客の購買行動につながらないなど、マスマーケティングが通用しない時代になっている。長瀬氏は、「パーソナライズコミュニケーション、One to Oneのコミュニケーションを取らなければ今後、価値の創出やビジネスはできなくなる」とする。そんな長瀬氏には、顧客の動きや悩みが「画面のすぐ向こう側に、手にとるように見えていた」という

 またロレアル入社時は、同社に22あるブランドのそれぞれが、データやデータの共有方法、ルールを持っており、CRM(顧客関係管理)システムもバラバラだったという。同じ会社であってもブランドが競合すれば、ブランド間でのデータ共有は避けたいからだ。しかし、「会社全体の経営から考えればデータの統一が必要不可欠だと考え、トップダウンで改革を進めた」(長瀬氏)という。

 このようにCDOが持つ役割と責任は大きい。だが変革に取り組み始めれば、やはり社内からの反発も多い。それだけに「CDOが改革を進めるには、CEOからのバックアップが大変重要だ。CDOとしても人間力と、人から愛されることが重要だ」と長瀬氏は強調。引き続き、テスト&ラーン(試行錯誤)が認められる環境の中で改革を続けたいとした。