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デジタルを駆使するCDOにこそ強い"人間力"が必要【第6回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事 兼 チーフコミュニケーションオフィサー)
2018年3月5日

デジタルをパートナーに新たな世界を作る

 次に、CDOと関連して想起されることが多いAI。「AIが仕事を奪う」といった論調も相変わらず聞こえる。だがCDO自身は、どのようにとらえているのであろうか。岩野氏は次のように話す。

 「『シンギュラリティ(技術的特異点)が起こり、AIが人間を凌駕する』といった記事などから偏った見方に陥り、その旗振り役がCDOだと思っている人が多い。だが、これは違う。機械やデジタルの力を使って、新しい世界、新しい価値観を一緒に作っていくのがCDOである。ただし、機械と人間の垣根はなくなっていく。新しい世界を作るパートナーが、たとえ(人間ではなく)アルゴリズムであっても、目的のために議論する喜びが勝る」

 楢﨑氏は、「デジタルは私たちを補助・補強(オーグメーテーション)するものであり、共生していく存在である」と強調する。その証左として、「かつて騎手が開発されたばかりの車と競争したり、工夫が掘削機と命がけで戦ったりしたが、いずれも今では欠かせない存在になっている」(同)ことを挙げる。

 10代、20代の若手を「AI世代」と表現する柿崎氏は、「AI世代と共に働き、彼らの活性化を目指すには、我々自身がAI世代との付き合い方を変えていく必要がある」と指摘する。もはや「優秀な小・中・高生は東京大学ではなく、海外の大学で学びたいと考え出している」ともいう。

 子供の頃からAIが身近に存在するAI世代にとって、「デジタルが"敵"か"味方"か」という議論からナンセンスなのかもれない。「AIは私たちの仕事を奪うものだ」という考え方そのものが、イノベーションを阻害してしまっているのだろう。

時代に合わせて変化するCDOの在任期間は短い!?

 CDOがうまく機能する組織のあり方についても議論された。堀内氏は、「CDOは新しいことに挑戦するポジション。失敗しても寛容的で、学習できる環境が重要だ」と語る。長瀬氏はそれを「CDOは時代に合わせて変化していく存在である」と表現。楢﨑氏も「一人のCDOが5年以上留まっている組織は進化しきれない」ことを強調した。ディスラプション(破壊)という危機の中で、大きな責任を伴いながら変革を起こすCDOの在任期間は短期にならざるを得ないのかもしれない。

 神岡氏が「海外ではCDOは流動性のあるポジション。ある組織で経験を得た人が別の組織に動いていくべきである」と指摘したのを受け、岩野氏はCDOを採用する組織の立場から、「社会の中で、自らの組織をどのような存在にしていきたいのかを徹底的に考え抜いておかないとCDOの採用は難しい」との見方を示した。

デジタルが人間味を逆に強調する

 最後にモデレーターの神岡氏は、デジタル技術を積極的に取り入れている将棋の世界を取り上げ、「デジタルによって人の能力が磨かれ飛躍している。デジタルをうまく利用すれば、人の力を補強する強力な存在になる」と紹介した。長い歴史を持つ将棋ですら、デジタル技術を取り入れることが逆に人間味を強調しているようにもみえる。

 今回のパネルディスカッションでは、業種や組織の規模が異なっても、CDOに求められる資質や、デジタルと人との共生の重要性、そしてCDOの挑戦を認める組織のあり方など、多くの示唆を得られた。「伝統や人間的なものを壊すのがデジタルである」という考え方は、的外れな見方に過ぎないのだろう。

 デジタル変革時代だからこそ、CDO同志の横のつながりが重要であり、さまざまな組織のCDOが持つベストプラクティスを共有できるコミュニティが必要になる。CDO Club Japanとしても、サミットやラウンドテーブル、ワークショップなどを通じて新しい世界の創造に貢献していきたい。そのための旅はまだ始まったばかりである。

鍋島 勢理(なべしま・せり)

CDO Club Japan 理事 兼 チーフコミュニケーションオフィサー。青山学院大学卒業後、ロンドン大学University College London大学院にてエネルギー政策を学び、鍋島戦略研究所を設立。現在は外交問題、サイバー攻撃について研究。海外の企業や省庁、自治体のデジタル化への対応と私たちの生活に与える影響を研究しつつ、日本の組織がデジタル化への対応が乗り遅れている現状に危機意識を抱き、CDO Club Japan理事に就任。国内外のCDOと交流を図り、組織へのCDO設置を啓蒙している。オスカープロモーション所属。