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スマートシティに向け増える行政CDO、スウェーデンは史上初の国家CDOを任命【第7回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事 兼 チーフコミュニケーションオフィサー)
2018年4月2日

スマートシティ構想の本格化が行政にCDOを求める

 このように行政がCDOを求める背景には、スウェーデンやニューヨーク市の例が示すように、スマートシティ構想が本格化していることがある。現在のスマートシティは、従来にも増してデジタルテクノロジーとデータの活用を強く指向している。住民のプライバシーとセキュリティに対する意識も高まった。スウェーデンの国家CDOであるZetterberg氏は「私たちが生きているこの時代は、かつてないほどに大きな構造改革を迎えている」と指摘する。

 デジタルな都市づくりに向けた先進的プロジェクトの1つが、未来都市構想を掲げるカナダのトロントで進む「Sidewalk Toronto」だろう。トロント市とオンタリオ州、カナダ連邦政府の3者が12億5000万ドルを共同で出資し、北米最大の都市エリアを開発する。主導するのは、米Googleの親会社であるAlphabet傘下のSidewalk Lab。Googleは先頃、トロント大学のAI研究施設に拠出することを発表している。

 カナダ・バンクーバー市のCDOを3年間務め、現在はCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)であるJessie Adcock氏は、筆者のインタビューに対し「行政は企業よりも縦割りの組織文化が強い。デジタルテクノロジーには縦割り組織を横につなげる役割がある。行政にこそCDOを置くことが重要だ」語っている(写真2)。

写真2:バンクーバー市のCDOを務め、今はCTOであるJessie Adcock氏(右)と筆者

行政のデジタル化は構造/体質的に遅れがち

 行政CDOを置く動きがグローバルに広がる中、日本の行政組織でCDOの肩書を持つ人は、CDO Club Japanが把握している限り、現時点では1人も見当たらない。

 英教育省のO'neill氏は来日時の講演で、完璧な状態にこだわり、システムやサービスのリリースが遅れる傾向にある日本に対し危機感を露わにしていた。「行政機関は民間に比べ転職せずに1つの組織で長く働く傾向がある。ルールや法律なども多く、必然的に物事が進むスピードが遅くなる。行政におけるデジタル化の促進は、企業のそれよりも困難が多い」からだ。

 そのO'neill氏は現在、政府の中だけなく、企業や住民らを巻き込み、彼らの話を聞くことに時間をかけながらプロジェクトを進めている。これはカナダ・オンタリオ州のCDOであるHillary Hartley氏が、「CDOとはChief Empathy Officer、すわち“共感”を生み出すという役割が重要だ」と強調するのと呼応する。傾聴の姿勢を保ちつつ、走りながら改善し、アジャイル手法により、より良いサービスを届けるというわけだ。

 そのために「行政CDOは『デジタルとは何か』『なぜ重要なのか』『どのようなベネフィットがあるのか』の説明に注力しなければならない。加えて、行政CDOを行政のトップが全面的にバックアップし、スピードを早めることが重要である」と、バンクーバー市のAdcock氏は指摘する。

 縦割り型組織で、革新的な文化とは距離があり、スピードが遅いイメージが強い行政機関においては、「CDOを置くべきかどうか」を議論している時点で遅いのかもしれない。行政がCDOを置くことは、外部環境との積極的なコミュニケーションを加速し、住民ニーズを把握し、かつ行政のビジョンを的確に届けられ、企業を巻き込むことにつながるはずである。

鍋島 勢理(なべしま・せり)

CDO Club Japan 理事 兼 チーフコミュニケーションオフィサー。青山学院大学卒業後、ロンドン大学University College London大学院にてエネルギー政策を学び、鍋島戦略研究所を設立。現在は外交問題、サイバー攻撃について研究。海外の企業や省庁、自治体のデジタル化への対応と私たちの生活に与える影響を研究しつつ、日本の組織がデジタル化への対応が乗り遅れている現状に危機意識を抱き、CDO Club Japan理事に就任。国内外のCDOと交流を図り、組織へのCDO設置を啓蒙している。オスカープロモーション所属。