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Society5.0が求める人材像はCDOそのもの【第11回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、広報官、海外事業局長)
2018年8月6日

政府が進める次世代コンセプト「Society5.0(超スマート社会)」。その「社会にデジタルという新しいインフラが張り巡らされた時代」の実現に向けては人材不足も指摘されている。そこで文部科学省を中心に、高等教育の改革が進められている。その姿はまさにCDO(最高デジタル責任者)の姿である。

 日本の18歳人口は、2009年から2020年頃まではほぼ横ばいで推移するものの、2021年頃からは減少すると予測されている。一方で世界一の長寿社会を迎え、2007年に生まれた日本の子供は107歳まで生きる確率が50%に上るという。これまでの「教育、仕事、引退」の3ステージからなるモデルから、留学、会社や組織にとらわれない働き方、副業、、独立などマルチステージのモデルへの変化が求められる理由がここにある。

Society 5.0が求められる人材像とSTEAM教育

 2050年頃の社会の“あるべき姿”として日本政府が掲げるコンセプトが「Society5.0=超スマート社会」である。Society5.0では、AI(人工知能)の発達により産業と働き方が変化し、定型的業務や数値的に表現できる業務はAIによる代替が可能になっていく。しかし、少子高齢化が加速する日本では、AIの研究開発に携わる人材が不足しているのも事実である、

 そこで文科省は2018年6月、「新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース」を結成し、求められる人材像の議論を開始した。新たな社会を牽引する人材の要素として、次の3つを挙げている。

(1)技術革新や価値創造の源となる”飛躍知”を発見・創造する人材
(2)技術革新と社会課題をつなげ、プラットフォームを創造する人材
(3)AIやデータの力を最大限活用し展開できる人材

 こうした人材を育成するために進められているのが、高等教育改革だ。その特徴の1つは、EdTech(Education × Technology:教育のためのテクノロジー)とビッグデータを活用した教育の質的向上と学習環境の整備である。デジタル教科書や教材、CBT(Computer Based Testing:コンピューターを利用した試験)の導入など、IT環境の整備やIT人材の育成・登用を加速させる。

文系と理系の枠を超えた教育にも期待

 もう1つは、文系と理系の両方を学ぶ「高大接続改革」である。高等学校で文系と理系が分断されてしまう現状を見直し、より多くの学生に向けてSTEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)やデザイン思考などの教育が十分に提供できるようにする。文理両方を学ぶことによりAIに関する素養、つまりAIリテラシーを身に付けた人材の育成を期待する。

 文理統合の動きと言えるのが、青山学院大学が2018年4月、青山キャンパスに設けた「シンギュラリティ研究所」である。AIが社会に及ぼす影響について、文系学部の視点から本格的な研究に取り組んでいく。シンギュラリティ(技術的特異点)とは、コンピューターの性能が全人類の知性の総和を超える時点を指している。

 同大の三木 義一 学長は、シンギュラリティ研究所開設にあたり「テクノロジーの急速な進化が私たちの社会や生活にどのような影響を及ぼすのかの予測は難しい。むしろ『わからない』といったほうが良い。分からない問題、答えが1つではない問題の検討は文系学問の得意技でもある。AIは文系こそが挑戦すべきテーマである」と語っている。

 大学におけるIT人材育成策としては、文系・理系の枠を超えた数理およびデータサイエンスの教育センターが国内6大学を拠点に整備が進んでもいる。北海道大学は生命・社会科学、東京大学は人工知能、滋賀大学は社会問題、京都大学はイノベーション、大阪大学は金融・保険、九州大学は数学の、それぞれの分野の拠点校だ。6校はコンソーシアムを形成し、標準カリキュラムを作成。それを全国の大学へ展開・普及される計画だ。

教育と就労を繰り返すリカレント教育が重要に

 こうした教育改革に調べていく中で、筆者が感じたのは、「これらの教育改革が求めている人材は、CDOに求められている資質そのものではないか」ということだ。CDOが企業のデジタル化を牽引する人材であり、そのデジタル化によって導き出されるSociety 5.0が求める人材像が同じであることは決して不思議ではない。

 加えて、生涯にわたって教育と就労を交互に繰り返すための教育システムとしての「リカレント教育」の必要性も訴えたい。デジタル化に伴い、働き方や生き方が変わっていく中では、教育と実務経験を相互に積んでいくキャリア形成を進めなければならないからだ。

 たとえばイスラエルは、多数のスタートアップ企業が最新技術を研究開発し、“ディスラプター(破壊者)”と呼ばれる新興企業も少なくない。そのイスラエルは、25歳以上からの学士課程への入学者の割合や、30歳以上の修士課程への入学者の割合、30歳以上の博士課程への入学者の割合が、いずれも世界でトップ3に入っている。

 リカレント教育は、急速に変化しつつあるデジタル社会において重要を増している。時代が変われば、働き方や学び方、求められる内容や学ぶ内容も変化する。必要性に応じて柔軟に学び直せる環境は不可欠である。

 筆者が2017年に加トロントでインタビューしたHSO (Health Standards Organization:保健医療福祉標準化機構)のCDOであるAmy Yee氏は、「私たちはテクノロジーのプロフェッショナルである必要はない。それらをビジネスに応用させ、多岐にわたるステークホルダーに翻訳するスキルが重要である」と語っている。

 Society 5.0が求める人材は、CDOがそうであるように、テクノロジーによって社会を破壊するための存在ではなく、次の社会を想像する“水先案内人”である。CDOが、所属する企業のデジタル化にとどまらず、Society5.0に向けたデジタル化や人材育成といったテーマにも取り組むのは、彼らがこうした点を理解しているからだろう。

鍋島 勢理(なべしま・せり)

CDO Club Japan理事、広報官、海外事業局長。2015年青山学院大学卒業後、英国ロンドン大学 University College London大学院にて地政学、エネルギー政策を学ぶ。東京電力ホールディングスに入社し国際室にて都市計画、欧州の電力事情等の分析調査を担当。外資コンサルティングファームを経て、鍋島戦略研究所を設立。デジタル戦略をリードする国内外の人材やデジタルテクノロジーを取材・研究している。海外のビジネススクールと連携したデジタル人材教育プログラムも開発中である。オスカープロモーション所属。