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CDOの多様なキャリアに垣間見えたアナログ力の重要性、CDO Summit NYC 2019より【第22回】
Wiggins氏は、コロンビア大では、データサイエンス研究所を創設し、実行委員会なども務める。一方のニューヨークタイムズではデータサイエンスグループを設立。ビジネスおよびニュースルームで発生する問題に機械学習を適用し、ソリューションの開発/展開を担っている。彼のチームは、顧客の傾向や性質を分析するモデルを作り、顧客が定期購読をキャンセルする兆候や、定期購読を始める兆候を予測してもいる。
「データサイエンスができることの1つは、顧客が生み出したデータから新しいインサイトを明らかにすることだ。企業の新しい収入源の扉を開き、既存のプロセスをよい効率的に、より正確に、よりリーズナブルにすることに役立つ」とWiggins氏は強調する。
顧客体験をデザインする「CxO」を置く企業が登場
今回のSummitでは、「CxO(Chief Experience Officer:最高体験責任者)」という、日本では聞き慣れない役職者の姿があったことが印象的だ。CxOの役割は、顧客体験を設計することだ。商品/サービスを、よりユーザーフレンドリーにしたり、ユーザーとのタッチポイントを増やしたりしてユーザーをより深く知り、より良い商品/サービスにつなげたりである。
ファッションブランドJ. CrewのPresidentであるAdam Brotman氏が、CxOの1人。以前は、米スターバックスのCDOとして顧客とのタッチポイントに関する施策をデジタルプラットフォームで展開してきた。オムニチャンネルの整備やモバイルアプリの開発、eコマースプラットフォームの設計、スターバックスカードプログラムの実施などだ。そして2016年には同社副社長に就いている。同社での経験がファッションブランドでも生きている。
今回のキーノートスピーチに登壇したDr. Destry Sulkes氏も、英WPPグループの米大手広告代理店Wunderman ThompsonのCxOである(写真3)。2018年12月までの約2年間は、WPPグループでヘルスケア業界に特化した広告代理店WPP Health & WellnessのCDOを務め、人々に、より健康になるための行動をうながすには、どんな媒体を使い、どのようなメッセージを発信すれば良いのかを設計してきた。
MD(Doctor of Medicine:薬学博士)とMBA(経営学修士)の両方を修了しているSulkes氏は、筆者とのインタビューで「人々を健康にするための新しいインサイト(洞察)を得るためにデータを収集し活用している」と、自身のミッションを語っている。
日本のCDO、特にB2C(企業対個人)の企業のCDOからは、「顧客体験をどうデザインしていくか」が議題に良く上がる。顧客自身が意識していないようなレベルまで顧客を理解し、既存のマスコミュニケーションから1人ひとりに合わせたメッセージを届け、各人の求めに応じるカスタマイズしたサービスを提供したいからだ。
そうしたことがテクノロジーによって可能になっていくなか、サービスをデザインしていく立場の人は今後、ますます“顧客の気持ち”に寄り添っていく必要があるだろう。
デジタルの最前線で働くCDOの共通点はアナログな“人間力”
国内のCDOの数は、2年前までの、たった数人から100人近くにまで増えている。彼らの経歴も多種多様だ。企業の経営層からヘッドハントされた方もいれば、組織の中で新規事業に継続し取り組みCDOに抜擢されている方もいる。
今回、ニューヨークで活躍するCDOたちの経歴を知る機会があったが、内外のCDOに共通しているのは、「常に新しいことを生み出し、自らが働きかけて社内の理解を形成できるだけの“人間力”を兼ね備えていること」だった。
実際、「CDOに求められるスキルは?」との問いに対し、多くのCDOからは「人として好かれる“人間力”」というアナログな要素が返ってきた。
鍋島 勢理(なべしま・せり)
CDO Club Japan理事、海外事業局長、広報官。2015年青山学院大学卒業後、英国ロンドン大学 University College London大学院にて地政学、エネルギー政策を学ぶ。東京電力ホールディングスに入社し、国際室にて都市計画、欧州の電力事情等の分析調査を担当。外資コンサルティングファーム勤務を経て、鍋島戦略研究所を設立。デジタル戦略をリードする国内外の人やデジタルテクノロジーを取材し、テレビや記事、講演などで紹介している。海外のビジネススクールと連携したデジタル人材教育プログラムを開発中である。オスカープロモーション所属。