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  • 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法

デジタル時代はなぜ“データ分析力”を求めるのか【第1回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2017年9月25日

デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)の実行に向けて、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(人工知能)といったデジタルテクノロジーへの期待が高まっている。だが、いずれにも共通しているのは、いかにデータを分析するかだ。種々の分析ツールは手に入るものの、どんな結果を得るために、どんなデータを、どう分析するかを考えられる“データ分析力”が不可欠だ。今回は、デジタルな時代が求めるデータ分析力とは何かを考えてみる。

 ある大手電子部品会社は2014年夏の時点で「ビッグデータを用いて新たな発見を得たい」と考えていた。部品会社は、単にB2B(企業間取引)ではなくB2B2B(企業対企業対企業の取引)のビジネスモデルを持っているためデータ分析は少し厄介である。モノ(部品)の流れを可視化しようとしても、バイヤーの先の先まで、サプライヤーの先の先までをそれぞれ分析しなければならないからだ。

ツールありきではデータ分析は成功しない

 この依頼を受けた、あるコンサルティング会社は、外資系の大手ITベンダーが提供するビッグデータ分析ツールを担ぎ、データを分析しようとした。だが、なかなか満足な結果が得られない。そこで筆者に話が回ってきた。筆者は、大量のニュースやSNS(Social Networking Service)の投稿が分類できる欧州ベンダー製の製品を使って分析を試みた。しかし、それでも顧客は満足しない。

 次に競合する米国ベンダー製のツールを使うことにした。知り合いとチームを組みハッカソンにも参加してツールにも慣れるようにした。同製品はAI(Artificial Intelligence:人工知能)機能を持っていた。同機能自体に不満があったわけではないが、やはり顧客ニーズには合致しない。著名なBI(Business Intelligence)ツールも試したがグラフ類が綺麗になっただけで新たな気付きはなかった。

 そこで少し角度を変えて、日本の大学と「ブランド名の分析」を研究してみた。競合企業との比較は可能になったが、顧客の満足を得られるほどの価値は引き出せなかった。

 この話で伝えたいことは、最初にツールを決め、データを分類して可視化するだけでは価値は得られないということだ。データ分析から得られるであろう新たな“発見”に期待する人々にとって全く意味がない。分析の本質は、課題点を明確にしたうえで、分析の根幹から考え直し、科学的に一から構築し直すことである。本連載では、この分析方法の本質を伝えていきたい。

「データ」が大きな役割を果たすようになった

 そもそも経営に資するITシステムは、(1)ビジネスモデル、(2)アプリケーション、(3)ITインフラストラクチャー(基盤)からなっている。これに加えて大きな役割を果たすようになったのが「データ」だ(図1)。

図1:経営に資するITシステムのアーキテクチャー

 結果、ITインフラの技術者やアプリケーションエンジニアなどもデータ分野に取り組み出している。安易に考え上記のようなツールありきに陥ったり、逆に難しく考えすぎてデータ分析を複雑で取っつきにくいものにしてしまっている。いずれの場合でも多くの人が「統計」と「確率」を混濁して分析しようとしているようである。

 「統計」と「確率」は全くの別物だ。統計は「逆問題」、確率は「順問題」と真逆である。逆問題とは、ある程度、肌感覚や経験値から結果や落としどころが分かっていて原因を可視化することである。

 一方の順問題は、全く結果が分からずに試行錯誤で分析することだ。この違いを含め、あまりにツール頼みでデータ分析に取り組むケースも多い。ツール派のデータサイエンティストの中には、データ移行の段になり「csv形式」といった基本すら知らない人も存在するといった驚くべき事実もある。