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  • 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法

人の行動・感情を知るために必要な非構造化データの分析【第10回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2018年6月25日

自動運転やロボティクスもイベントドリブン型

 昨今話題のクルマの自動運転を実現するためにも、イベントドリブン型の技術が必要である。なかでも次の3つの機能は不可欠だ。

(1)運転中の人の行動を学習する機能
(2)周辺の状況データを学習し、自動車や歩行者を短時間で認識する機能。V2V(Vehicle to Vehicle:車車間)、V2P(Vehicle to Pedestrian(クルマと歩行者)、V2I(Vehicle to Infrastructure:クルマと、信号機や標識などの交通インフラ)などがある
(3)道路のどの場所が安全かを判断する機能

 ほかにも、高齢者など足の遅い人の動きを見て信号機が青信号の時間を適切な長さに変えるといったことも、イベントドリブン型の考えである。

 コンピュータの誕生から現在まで、データの中心はデマンドを中心とした構造化データだった。それがビッグデータの時代になり、デマンド以外から出る非構造データへの注目が高まってきた。これまでなら捨てられていた、あるいは、取得してこなかったイベントデータがビジネスに大きく影響を及ぼしているからだ。

 IoTだけでなく、AI(人工知能)やロボットが人の役割を担っていくなかでは、エモーションやマインドを表すデータが、より重要になっていくだろう。

退職傾向が非構造化データの分析で分かる

 人の行動や感情を表すデータの分析例として、筆者が最近実施した人材に関するコンサルティングにおけるデータ分析の内容と結果を紹介しよう。コンサルティングの内容は、社員の退職者傾向の分析である。

 労働力不足の昨今、社員が「退職届を出す」というデマンドを起こしてから動いたのでは、時すでに遅しである。それ以前に、社員の行動をモニタリングし、何らかのイベントを察知する必要がある。たとえば、いつもより落ち着きがないとか、用もないのに週末に出社しデータをダウンロードするとかだ。機嫌が悪い、最近笑わなくなったといった社員の感情や内面までとらえられれば、退職への対処は、より容易になるだろう(図1)。

図1:退職者の傾向分析の流れ

 分析に当たっては、ヒト・モノ・カネを考えるためのロジカルシンキングのフレームワーク「7S」を採り入れた。7Sとは、「Strategy(戦略)」「System(経営システム)」「Structure(組織構造)」「Skill(スキル)」「Staff(人材)」「Style(経営スタイル)」「Shared Value(共通の価値観))」である(図2)。

図2:ロジカルシンキングの「7S」フレームワーク

 7Sにおける「Staff(人材)」が、会社の経営姿勢や経営者の価値観と合致すれば、雇用契約は長続きする。そうでなければ退職は早まる。図2において7つのSは、左側に位置するほど外部の影響を受けやすい、つまり外部データによって変化し易いため、分析頻度も高くなければならない。だが、右側は変わり難い要素ため、データ分析による効果が出やすい。

 今回、分析対象にしたのは、社員が入社時などに書いたプロフィールやコメントといった非構造化データである。非構造化データとは、特定の構造を持たないデータを指し、メールや文書、画像、動画、音声などである。この非構造データを「形態素解析(Morphological Analysis)」で分析した。テキストデータを文法や辞書に基づき、形態素(言語で意味を持つ最小単位)の列に分割し分析する手法である。