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  • 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法

データを“金”に変えるにはメッセージが不可欠である【第17回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年1月28日

Alternative Dataへの期待が高まるヘルスケア領域

 その中で、国レベルで取り組みが進むのが、「HealthTech」の領域だ。ヘルスケアに関しては、国も病院も製薬会社も多くのデータを持っている。だが個人情報の塊である、それらデータをどのように活かしていくかの方策は、国益の肝になる。

 少子高齢化が進む日本では、人が年を取り寝込んでからどうするかも当然大切である。同時に健康に年をとっていく「健康年齢」をどう引き上げるかという「フレイル(適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態)」の領域にも意味がある。

 筆者は以前、フレイルに関して分析したことがある。そこでは、肉体的・精神的・社会的に、人がどのように年をとっていくかを分析しなければならなかった。子供から青年期を経て大人になる過程は、誰しも似たような経緯を取るが、老いる過程は全くの千差万別だからだ。

 具体的には、自動車部品の可視化システムをヘルスケア領域に適用し、「病気」「症状」「サプリメント」などの関係性を可視化・分析した。ある病気の症状の関係性や、ある病気が重くなった場合の合併症、ある症状に効くサプリメントなどの関係性を可視化した。その際は、単に可視化するだけでなく、分類・予測・推論によって真実に近づくことができた。

 医療ビッグデータの元になる患者のデータには、従来から取得している、喫煙の有無や持病などにとどまらず、様々なデータが対象になってくる。起床時間・就寝時間・万歩計・脈拍の数値などのイベントデータ、感情に関するエモーションのデータなどだ。

 これらデータは、これまで分析対象ではなかったAlternative Dataであり、保険業界や製薬・創薬の会社にとっては魅力的なはずだ。なお、国の認定事業者が匿名加工した医療情報を売買せずに公開すれば、それはOpen Dataになる。

 医療ビッグデータの元になる患者のデータには、従来から取得している、喫煙の有無や持病などにとどまらず、様々なデータが対象になってくる。起床時間・就寝時間・万歩計・脈拍の数値などのイベントデータ、感情に関するエモーションのデータなどだ。

 これらデータは、これまで分析対象ではなかったAlternative Dataであり、保険業界や製薬・創薬の会社にとっては魅力的なはずだ。なお、国の認定事業者が匿名加工した医療情報を売買せずに公開すれば、それはOpen Dataになる。

日本語と英語の違いがデータ分析にも影響している

 データをビジネスに変える最終段階は、分析で真実をつかんだ後に、戦略的に利用するためのメッセージ化だ。単なる真実のままでは世の中には受け入れられないからだ。

 メッセージ化ではまず、データ分析の結果から「ストーリー性」を作る。そこには「具体性」と「簡潔さ」がなければならない。さらに「予想外」の内容で、かつ「独創性」が大切になる。失敗のほとんどが、この独創性のなさが原因だ。真似だけでは何も生まれない(図3)。

図3:データのメッセージ化が求める要素

 当然ながらデータ分析では、「信頼性」が特にものを言う。データ対象をすべて網羅する【完全性】、1つひとつが正しい【正確性】、そして専門家が分析したという【正当性】を満たすことが信頼性である(第14回参照)。

 メッセージは、受け手が理解して初めて機能する。そのため「データ重力」の言葉通り、データが向かう方向に利害関係者を集めるテクニックが必要になる。それが、メッセージが伝わりやすい構造・表現である。データサイエンティストは、そこまで把握すべきなのだ。

 日本語では曖昧な表現(ハイコンテキスト)が好まれ、英語では直接的に分かりやすい表現(ローコンテキスト)が望ましいといわれてきた。実は、この違いが、データ分析の結果がビジネスで役立っているかどうかにおける欧米と日本の差異と言ってもいいであろう。

 図3で示した6個の要素を可能な限り取り入れて知恵にし、ビジネス成果につなげなければデータ分析自体に意味はない。なお、6つの要素を可視化するにはレーダーチャートにしても良い。どの場合に成果が出たのかなどを複数の分析結果から分析できる。これを「メタ分析」と言う。

 次回は、データ分析で必要となる発想力について述べる。

入江 宏志(いりえ・ひろし)

DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。

ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。