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- 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法
ビッグデータの法則:その4=広がる格差、なぜ格差が広がっているのか?【第23回】
『〇〇する力』を磨くにはメソドロジーがいる
『〇〇する力』は、遺伝的に受け継がれ、もしくは学習によって醸成される。さらには食べ物とも深いつながりがある(食べ物については、ヘルスケアの分析の回で解説したい)。
学習によって『〇〇する力』を効果的に磨くためには、メソドロジー(方法論)が有用である。ただメソドロジーであれば何でも良いというわけにはいかない。
かつて筆者が外資系企業に務めていた時に「Rain Maker」というソリューションに関するメソドロジーがあった。雨降らしという言葉だが「優秀な営業」という意味がある。日本の有名なプロレスラーのニックネームも「レインメーカー」で、これは「金の雨を降らす」という意味のキャッチコピーだった。ただ、このRain Makerは日本市場では全く合致せず使い物にならなかった。
その頃から筆者は独自にメソドロジーを考えるようになった。筆者が考案したメソドロジーは、(1)実現したいこと(営業であれば製品/サービス)、(2)課題点・要望、(3)トレンドの3つの層から成り立っている(図4)。
このメソドロジーにも『〇〇する力』が関連する。上位層の「実現したいこと」は、営業ならば売りたい商品やサービス、技術ならば作りたい部品やソリューションが相当する。実現したいことを具体的にする「抽象化する思考力」や「発想力」のほかに「プレゼンする力」や「説得する力」も必要になる。
中間層は課題点・要望をまとめる「組み立てる力」が不可欠だ。ここでの課題点・要望は、顧客など相手のものなので「質問する力」のほか、相手から反論が出た際の「回答する力」が大切になる。
そしてトレンド層には、さまざまな動向が絡んでくる。それらトレンドを自らの辞書にしておく「辞書化する力」が必要だ。
ほかにも必要な力がある。3つの層を結びつける「紐付ける力」が、その1つ。ほかにも、氾濫するビッグデータから無駄な情報を捨て重要なことに集中するための「捨てる力」や、変化が激しい時代を生き抜くための「変われる力」も重要である。
ビッグデータを観察すると、さまざまなことに“ワニの口”のような大きな格差が起こっている。格差があるところには必ず解決策がある。だが、それに気付くためには、やはり『○○する力』が求められる。
喜怒哀楽こそが人の原動力である
AIは特殊条件を気にし過ぎて真実を逃してしまう過学習を犯す可能性がある(第14回参照)。また学習したことにしか対応できず、新しいことに対応する応用が効かない。つまりAIは、未来に対応することが難しい。
この「未来力」ともいえる力は、人には野性的に備わっている。未完成な存在であるが故に恐怖心があるからだ。「怖い」「悔しい」という感情など喜怒哀楽こそが人の原動力なのである。
日本の小学校ではプログラミング教育の必須化が始まるが、プログラマーが原点である筆者は必須化には疑問を感じている。確かにSTEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育は大切であり、文系・理系を問わず、そのトレンドは知っておきたい。それでもプログラミング自体ではなく、抽象化する力を鍛え、発想する力を養い、人へ質問する力や対応する力を磨くことのほうに価値を感じる。
「ビッグデータの法則」は他にもあるが今回までとする。次回は分析対象である5大アセット、すなわち「ヒト・モノ・カネ・ブランド・データ」について解説する。役に立つ種々の情報源も紹介したい。
入江 宏志(いりえ・ひろし)
DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。
ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。