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ビッグデータの法則:その4=広がる格差、なぜ格差が広がっているのか?【第23回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年7月29日

ビジネスやデータ分析に役立つ考え方として、筆者が「ビッグデータの法則」と呼ぶルール群を第19回から解説している。これまでに「法則1=95%は信頼できない」「法則2:振り子現象」「法則3=数字の魔力」を取り上げた。今回は、4つ目の法則である「広がる格差」について説明したい。

 世の中には哲学的に大きな原則がある。「勉強を頑張れば目標の学校に入れる」「精一杯働けば収入が増える」「本をたくさん読めば心が豊かになる」などだ。もちろん「勉強を怠ければ志望校に落ちる」「仕事をさぼれば収入が減る」「本も読まずスマホでゲームばかりしていては教養がつかない」なども原則である。

二極化や分裂により格差社会が一層広がる

 人間は元来「努力して何かを得る」「努力しなければ何かを失う」という大原則で成り立ってきた(図1)。英語の諺にも「Hard work has a future payoff. Laziness pays off now. (一所懸命働けば将来報われる。怠惰は今すぐ報いを受ける)」がある。

図1:哲学的な大原則

 こうした大原則を破ったのが、ゆとり教育だろう。頑張らなくても良い学校に入ろうとし学校の教科書は薄くなった。2003年に小学校3年生の算数の教科書の厚さを測ったら、たった2mmしかなかった。円周率π( =3.1415…)も丸められ「π = 3」とした時期すらある。

 本来、人は怠けて目標を達成できる存在ではない。ところが無理やり、不自然な流れを作ってしまった(図1の斜めの線)。そのため、頑張っても報われないワーキングプアが誕生した。2018年には「働き方改革」が国会で盛んに議論されたが、これも哲学的な大原則に逆らう不自然な形になれば、ゆとり教育の二の舞になるだろう。

 米国には「one-percenter」という言葉がある。超富裕層のことだ。残り99 percentは庶民を意味し、one-percenterは格差を表している。上位1%が全資産の40%を占め、逆に下位90%は所得について半世紀近く沈滞したままで、格差は一層広がっている。

 「polarize」という単語もある。多くは「分裂する」と訳されるが「二極化する」という意味もある。富裕層と貧困層に二極化し、英国がEU離脱を巡って分断・分裂することなどを表現する際に使われる。二極化や分裂が今後のキーワードであり、格差社会が一層広がるであろう。

AI(人工知能)を使いこなせるかどうかで格差は、より深刻に

 データ分析においても同様のことが起こっている。データが日々増大し、ビッグデータ化するなか、ビッグデータに埋もれた価値を見いだすことは、以前より難しくなっている。このことが、格差をより広げている。

 加えて、人がAI(人工知能)を使いこなせるかどうかで格差は、より深刻になると予想される。AIがビッグデータを駆使することで予測精度が劇的に高まり、分析速度も速くなる。結果として格差が広がっていく速度も速くなる。「AIシンドローム」と言える状況が訪れる。

 たとえば就活時に、今後はAIが、さまざまなビッグデータを利用して候補者を選別するようになるだろう。つまり、AIが人を判断し格付けすることで、二極化・分裂が進み、格差は、ますます広がっていく。AIが格差を助長し社会をぶっ壊していく過程でも、人は生き残らなければならない。

人の5大要素

 AIが我々に迫ってくるなか、まずは、人そのものについてみてみよう。外部環境にさらされる人の生命は、以下の5つの要素から成り立っている(図2の左)。

図2:人の5大要素と、その分離

人の要素1 :外部環境からの入力(データや食べ物、空気など)に対応すること
人の要素2 :道具を使うこと
人の要素3 :知能を磨くこと
人の要素4 :意識を持つこと
人の要素5 :スキルを得ること

 最近は、歩いていても、電車に乗っていても駅で待っていても、ほとんどの人がスマホを使っている。自転車に乗っている人、ベビーカーを押している人、自動車やバイクに乗っている人ですらそうだ。大多数の人が自分で“知能”を使わず、スマホに任せている。つまり、知能(人の要素3)と意識(同4)の分離が発生している。

 知能と意識は従来、密接にからんでいた。その分離が起こり、知能が人から流出しAIに置き換わってしまう。無意識のうちに知能が使われる可能性があり、過ちも増えるに違いない。手書きが漢字変換や音声入力に置き換わることで人の漢字能力が弱くなる。計算機の登場で人の計算能力は落ちた。今度は、スマホやAIによって、考える能力に影響が現れるだろう(図2の右)。