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- 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法
データ分析と心理学の深いつながり【第36回】
比較6:模倣
心理学に「新生児模倣」という言葉がある。新生児が大人の表情を真似ることでも知られている。データ分析では「相似を探すこと」が模倣に当たる。相似は、データ分析において1つのヒントになる。ある領域の分析で、すでに事実が見つかっていれば、相似の箇所にも必ず発見があるからだ。
しかし、他の箇所での分析で気付きがなければ、その相似の箇所にも概ね気付きはない(第22回参照)。メタ分析を第35回で紹介した。複数の研究の分析結果を分析することだ。自ら分析することも大切だが、他の人が分析した結果を複数集めて分析することも重要だ。これも模倣の1つになる。
心理学でもデータ分析でも、実践する上で必ず“危機”が訪れる。危機になる前が“潜在的なリスク”ということになる。人だけでなく、モノ・カネの視点でもリスクや顕在化した危機がある。このリスクや危機を十分に理解することが、データ分析でも欠かせない(第14回参照)。
単純にデータ分析をするならば、統計だけでも対応できる。だが、役に立つレベルの成果を出すべく科学的にデータを分析するには統計だけでは物足りない。
筆者は、データ分析者であると同時にコンサルタントでもある。その領域に「GRC(Governance:ガバナンス、Risk management:リスク管理、Compliance:コンプライアンス)がある。もともと、独SAPや米Oracleが言い始めた言葉だが、リスク管理と危機管理のノウハウはデータ分析でも必須だ。
データ分析をする上では、数学も当然必要なのだが、心理学や危機管理・リスク管理のノウハウも養ってほしい。
新型コロナ対策でも危機管理という言葉がよく使われた。危機管理をデータ分析の視点で定義しておこう。危機という「結果」が出るには、必ず「原因」がある。暫定対策というのは、この結果に対して対策を施すことを言う。本格的な対策は、原因に対しても行うことだ。
数学的な考えを産業界に応用する
データ分析で求められる能力を3つ提示する(図3)。(1)データサイエンス(データ科学)、(2)データエンジニアリング(複数のデータを紐付けることで気付きを得ること)、(3)データイノベーション(データによってイノベーションを起こすこと)だ。
データサイエンスでは数学が基本になる。データエンジニアリングでは数学的な考えに加えて、心理学が必要だ。データイノベーションではビジネスモデルを作るという視点でリスク管理が必須となる。
次回は、事例をまとめる。本連載は開始から3年が経つ。だが、データ分析の領域ではノウハウや知識はまったく色褪せない。次回までにもう一度、第1回から目を通しておいていただきたい。ヒト・モノ・カネ・ブランド・データの5大アセットについて、複数のデータ群を巧みに組み合わせて分析した事例を紹介する。
入江 宏志(いりえ・ひろし)
DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。
ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。