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データ分析と心理学の深いつながり【第36回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2020年7月27日

比較3:モデル化

 私たちが外界の何かを見る際に、それが文字ならば、その視覚情報から文字の情報を取ってくる。この仕組みを心理学では「心のモデル化」と呼ぶ。「視覚情報」を認識してから特徴を「共通化」する。次に、さまざまな「候補」から合致する文字を探す。最後に目でとらえた文字に合う答え、つまり「結果」にたどり着く。

 人が目で文字を認識する際の心の仕組みを「パンデモ二アムモデル」という。パンデモニアムは「伏魔殿」と訳され、「悪魔が潜む場所」という意味がある。だから、「処理モジュール」という意味を示す際に比喩的に「デーモン(悪魔)」という言葉が使われる。視覚情報を認識する機能を「イメージデーモン」、特徴を共通化する機能を「特徴デーモン」、候補から探す機能を「認知デーモン」、そして結果を得る機能を「決定デーモン」と呼ぶ。

 一方、データ分析では、「DIKW(Data:データ、Information:情報、Knowledge:知識、Wisdom:知恵)という言葉がある(第11回参照)。生のデータを取ってきて、特徴を抜き出し共通化したものが「情報」だ。それに持っている「知識」に照らし合わせて合致する候補を取り出して「知恵」を得る。これがデータ分析のモデル化である。

 心理学における「視覚情報」「特徴の共通化」「候補」「結果」は、データ分析において「データ」「情報」「知識」「知恵」に、それぞれ対応する。そう考えれば、心理学とデータ分析の親和性が分かるであろう(図2)。

図2:心理学の「パンデモニアムモデル」とデータ分析の「DIKWモデル」の親和性

比較4:アプローチ法

 心理学で、分からないことを解明していく場合、ある程度分かっている際に用いる「トップダウン型」と、全くわからない状態からスタートする「ボトムアップ型」がある。たとえば、目に見える世界をとらえるときにも2つのやり方がある。

 一度は見て知っていることならばトップダウン型、初めて見る場合は何もわからない状態なのでボトムアップ型になる。要は、経験値があればあるほどトップダウン型が役立つ。

 データ分析でも経験は大切である。ゼロからの状態から先入観抜きで行うボトムアップ型と、主観によって条件を決めて真実にたどりつくトップダウン型がある。

比較5:錯視

 心には癖があり、この癖を活用したものに「錯視」がある。心理学では錯視を使って人を誘導していく。たとえば、同じ長さの2つの線でも、矢印を内向き・外向きに付けるだけで2つの線は違った長さに見える(ミュラーリヤー錯視)。密集させるとバラバラにするよりも大きく見える錯覚効果(デルブーフ錯視)など数多くある。

 データで見れば、ヒトだけでなく、モノやカネにも癖があり、ベンフォードの法則は、一種の癖と言っていいであろう(第22回参照)。ベンフォードの法則は、ランダムに数字を並べ、その先頭に来る数字を調べると「1」が最も多い(30.1%)というものだ。

 さまざまな数字に関する法則が錯視に当たる。モンモール数、黄金比、白銀比、完全数、「78:22」の法則、ネイピア数などである(第22回参照)。データ分析では、数字の法則のようなデータの癖を見抜くことが肝だ。だが、非科学的なことには惑わされないようしてほしい。常に科学的でなければ学問とは言えない。

 錯視は人の記憶と連動している。人の記憶モデルに「多重記憶モデル」がある。意味記憶、エピソード記憶などとつながっている。意味記憶は、事実と概念に関する記憶だ。エピソード記憶は特定の時間や場所での行動や、そこでの感情が含まれる。

 一般にエピソード記憶のほうが、心理学上、人の記憶への定着率が高い。たとえば、学校の授業における単調な内容は、なかなか印象に残りにくい(意味記憶)。ところが先生が脱線して話した内容は、とても面白く、強く印象に残る。

 一方、データ分析では、得られた内容を辞書として保存するが、検索しやすいように多重記憶モデルを参考にしている。B2B2B構造(企業対企業対企業)の辞書も、その簡易的なものだ(第8回参照)。

 なおAI(人工知能)のニューラルネットワークで用いられる礎にも記憶モデルがある。その理想は人の記憶モデルである。