- Column
- Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか
デジタルの“渦”が業界を飲み込んでいく【第1回】
渦巻く激流のように到来するデジタル化の衝撃
渦巻きは回転しながら、そばにあるものすべてを中心に引き寄せ、中心に近づくほど、その速度が増していく。その渦は極めて混沌としている。渦の外側にある物体が、次の瞬間には渦の中心めがけて吸い込まれることもあれば、長い時間をかけて回転しながら中心に向かうこともあり、その軌道予測は難しい。渦中のものは中心に向かって収束しながら、時には衝突したり砕けたり組み合わさったりもする。
このような渦がもたらす様子を企業や業界に当てはめると、デジタル化による企業淘汰や、分社化、買収、異業種からの参入などの予想が困難な状況とイメージがつながるかと思う。察しがつくかと思うが、デジタルボルテックスの渦の中で生き残るためには、その流れに飲み込まれない自らの変革と、その変革を迅速に実行するアジリティ(俊敏さ)が不可欠になる。
デジタルディスラプションの起こりやすさと、企業・業界が直面する競争状態を業界ごとに予測したのが図2である。
渦の真ん中に近い業界ほど、デジタルディスラプションに最も直面している業界であり、現時点でデジタル化がかなり進行している業界でもある。一方、渦の淵に近い場所にある業界は、ディスラプションが起きる可能性が低く、当面は非デジタル化の中で既存の利益を享受できると考えられる。
ただし、渦の中心に突入したとしても、その市場が安定状態に入ったわけでも、その業界や企業がなくなってしまうわけでもない。図2でプロットされた業界ごとのデジタルディスラプションは、現時点での調査結果からの予測(スナップショット)にすぎない。今後、様々な要因によりダイナミックに変化していく可能性があることにも注意していただきたい。
脅威だと認識しつつも半数近くが経営課題だととらえていない
最後に、DBTセンターの調査結果から、既存企業の実態を示すいくつかの興味深い数字を紹介しておく(図3)。
- 今後5年以内に市場シェアトップ10の既存企業のうち、平均して約4社がデジタルディスラプションによって、その地位を奪われる
- デジタルディスラプションが起きるまでの期間は平均して3年。過去に比べて競争勢力図の変化スピードが明らかに上昇している
- 約41%がデジタルディスラプションを実在する脅威として恐れている
- しかしながら、デジタルディスラプションに対して積極的に対処している、すなわち「競争力を維持するためであれば自身を破壊することもいとわない」との回答は、たったの25%。約45%が「取締役会で議題するには値しない」と回答した
みなさまの会社、あるいは読者自身は、どう感じておられるだろうか。次回以降、デジタルボルテックスを通してデジタルディスラプションを紐解き、今日の競争の現実を説明しながら、デジタルビジネストランスフォーメーションを実践していくためのヒントを考察していく。
なお、デジタルボルテックスの日本語翻訳が2017年10月24日に日本経済新聞出版社から出版された。併せて、ご覧頂ければ幸いである。
今井 俊宏(いまい・としひろ)
シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。