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  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

デジタルの“渦”が業界を飲み込んでいく【第1回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2017年11月13日

デジタルディスラプション(破壊)により今後5年のうちに、これまで業界をリードしてきた企業10社のうち4社が姿を消すかもしれないと指摘されている。インターネットの登場がもたらした何倍もの衝撃が、デジタル化の波により間近に迫っている。このデジタルディスラプションの前提である「デジタル」について考えた後に、「Digital Vortex(デジタルボルテックス)」を紹介する。

 シスコシステムズは2015年6月、世界トップクラスのビジネススクールであるスイスのIMDとパートナーシップを結び、「Global Center for Digital Business Transformation(DBTセンター)」を設立した(図1)。イノベーションと学習の融合によってデジタル時代の革新的なビジネスモデルを構築することを目指し、デジタルによるビジネス変革を調査研究する。同種の研究拠点としてはDBTセンターが世界初のグローバルな拠点になる。

図1:Global Center for Digital Business Transformation(DBTセンター)の概要

 DBTセンターでは、シスコの研究員とIMDの教授陣が結集し、新興企業や既存企業、ディスラプター(破壊者)など、立場が異なる様々な企業や組織の視点から、新しいアイデアやベストプラクティス、革新的な思考のプロセスなどを研究している。

 テクノロジーとイノベーションというシスコの専門性と、ビジネスと経営というIMDの専門性。これら2つの専門性を融合したユニークかつ強力なレンズを通して得られた知見が、本連載で紹介する「Digital Vortex(デジタルボルテックス)」である。

「デジタル」の意味を整理する

 デジタルボルテックスに触れる前に、まずは「デジタル」と「デジタルディスラプション」「デジタルビジネストランスフォーメーション」という用語の定義を考えてみたい。

 デジタルについて現時点では、はっきりとした定義が存在しない。日常的すぎて広範囲なとらえ方が可能だからだ。DBTセンターでは「つながること(Connectivity)」がカギだとの考えから、以下のイノベーティブなテクノロジーの1つ以上を土台に実現している仕組みを「デジタル」と定義している。

インターネット、モバイル、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AI(Artificial Intelligence:人工知能)、クラウドコンピューティング、フォグコンピューティング、ブロックチェーン、ドローンなど

 デジタルディスラプションについては次のように定義している。

デジタル技術とデジタル化によるビジネスモデルが、企業価値や市場における企業のポジションに及ぼす影響ととらえ、デジタル化による脅威であると同時に、チャンスでもある

 デジタルビジネストランスフォーメーションの定義は以下である。

デジタル技術とデジタル化によるビジネスモデルがもたらす組織変化や業績変化を指すが、第1に目的が企業の業績を改善すること、第2にデジタルを土台にした変革であること、第3に人やプロセス等の組織変化を伴うものである

 そして、デジタルボルテックスはDBTセンターの活動1年目の成果(集大成)である。世界13カ国、12業界、941人のエグゼクティブを対象に実施した調査結果から導き出した。デジタルによるディスラプションの本質と、ディスラプションを支配しているルールを解説している。“渦巻き(Vortex)”にたとえることで、変化の速度と利害の大きさを上手く表現している。