• Column
  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

ディスラプターと戦うための対応戦略(前編)「防衛的アプローチ」【第4回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年2月13日

既存企業が、ディスラプション(破壊)の嵐を乗り切ることは難しい。しかし、デジタルな手段により、カスタマーバリューをいかにして生み出すか、事業モデルからの収益をいかにして最大化するかに注力すれば、新たな道が開けるはずである。

 デジタルボルテックスの世界で起こるディスラプションに、どう対応すれば良いのか。既存企業が取り得る対応戦略は4つある(図1)。ディスラプションされつつある事業から価値を最大限に引き出そうとする"防衛的な"アプローチに2つの戦略がある(収穫戦略と撤退戦略)。さらに、ディスラプションによりバリューベイカンシー(価値の空白地帯)を追求しようとする"攻撃的な"アプローチに2つの戦略がある(破壊戦略と拠点戦略)。今回は、防衛的なアプローチである収穫戦略と撤退戦略に関して述べる。

図1:ディスラプションに対応する4つの戦略

戦略1:残っている事業価値を絞り出す「収穫戦略」

 "防衛的な"手段に出る際は、既存の利害関係者(カスタマー、パートナー、規制当局等)との関係を利用した「遮断戦術」から始める場合が多い。遮断戦術は、ディスラプターの動きを鈍化させると同時に、体勢を整えて対応するための"時間稼ぎ"が主な目的である。たとえば、法的措置に訴える、ディスラプターの主張に対抗するマーケティングキャンペーンを展開する、資金力にものを言わせてディスラプターよりも料金を下げるといった手段が考えられる。

 しかしながら、遮断戦術によりディスラプションを完全に妨害できることは滅多にない。そのため収穫戦略では、ベストを尽くし粘り、破壊されようとしている事業から最大限の価値を引出すことを狙う。そこでのデジタル化は、収穫戦略に必要な事業効率の向上やカスタマーエクスペリエンス(CX)の改善など"守りを固める"ために重要になる(表1)。

表1:収穫戦略について考えるべきこと
No.内容
1ディスラプターの動きを鈍化させる遮断戦略があるか
2ディスラプトされた事業に持続可能なプロフィットプールがあるか
3ディスラプターの動向から、今の事業を改善するヒントを学べないか
4この新しい競争に適応するには、どんなステップを踏んで組織を再編すべきか
5収穫戦略から破壊戦略に移行し、攻勢に転じるべきか
6撤退戦略を探るとしたら、いつどれくらいのスピードで行うか

Netflixにみる収穫戦略のケース

 動画ストリーミング配信サービスを手がける米Netflixは全世界に1億人以上の会員を持ち、190以上の国と地域にサービスを提供している。ディスラプターとして有名な同社ではあるが、一方で成熟し衰退しつつある事業を持ち合わせている既存企業でもある。オンラインでのDVDレンタルサービスだ。2010年のピーク時には約2000万人いた利用者が、現在では400万人を下回る程度にまで減少している。

 一見すると、DVDレンタルサービスから動画ストリーミングサービスへ見事に転換しているようにとらえられがちだ。だが同社は、時代に合わなくなった事業に複数の効率向上策を講じることで利益を最大化する収穫戦略を同時に実行しているのである。その結果、2017年度第4四半期には約6200万ドルの利益を上げている。

図2:米Netflixの収穫戦略

 Netflixのように収穫戦略に長けている既存企業は多くない。実際に自社の事業が落ち込んでいることを、自ら進んで認識することに対し抵抗があるからだ。また、収穫戦略と破壊戦略を並行して行うことは、既存事業をリスクに晒してしまうだけに、実はかなり難しい。こうした複雑さを乗り越え、収穫戦略と破壊戦略を上手く天秤にかけ、限りあるリソースをどこに投資すれば、見返りが一番多くなるかを慎重に見定める必要がある。