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デジタルビジネスアジリティーを実践するリーダー像【第9回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年7月9日

アジャイルなリーダーが取るべき行動姿勢

 HAVEを備えたアジャイルなリーダーには、デジタルトランスフォーメーションの取り組みに当たり、次のような姿勢を取ることが求められる。

ハイパーアウェアネス(察知力)に対する姿勢

 ハイパーアウェアネス(察知力)が重要なのは、変化のスピードが速くなっているからに他ならない。それゆえ、アジャイルなリーダーは、組織の内外を問わず、常に環境に注意を払う必要がある。業界内の競合他社だけでなく、業界の外部にも目を向ける必要がある。

 自身が関連する分野に置いては、テクノロジーの進歩に遅れをとらないよう、新しく登場するテクノロジーの役割や影響を認識することが重要になる。変化の激しいデジタルボルテックスの世界では、戦略は常に脱線するリスクにさらされている。アジャイルなリーダーは、ビジョンに基づいて、自身の所属する組織を正しい方向に導かなければならない。

情報に基づき決定する姿勢

 アジャイルなリーダーは、テクノロジーを活用して収集したデータとアナリティクスの価値を理解する。ただし、情報に基づく意思決定が、アルゴリズムのみから得られるものではないことにも注意しなければならない。

 現実には、手元に十分なデータがない場合や、矛盾したデータしかない場合もある。このような場合には、有益なデータと不要なデータ(ノイズ)を区別する力を身につける必要がある。

迅速に行動に移す姿勢

 アジャイルなリーダーが、素早く行動できなければ、ハイパーアウェアネス(察知力)と情報に基づく意思決定の効果は大幅に減少してしまう。つまり、アジャイルなリーダーは、決定したことを、組織の壁や予算の壁、企業文化の壁といった、あらゆる障壁を乗り越え、指導力を発揮しなければならない。

 行動が遅過ぎれば、明確な目標を定め、そこに到達する手段を認識していながらも、競合他社に追い越されて行くのを目の当たりにすることになる。特に大企業では、行動に移すスピードを向上させるためにも、失敗を許容する文化を醸成する必要がある。

新しい知識を若手から学ぶ

 デジタルボルテックスの渦の中では、テクノロジーの変化のペースが一段と増していることから、最新のテクノロジー、そして、未来のテクノロジーをデジタルネイティブなミレニアル世代を始めとする若手の社員から学ぶ「リバースメンタリング」も有効である。

 リバースメンタリングは、1990年代に米GEのCEO(最高経営責任者)だったJack Welch氏が、最初に打ち出した構想だ。若手の社員を幹部社員と組ませインターネットの使い方を学ばせたのがキッカケだとされる。その後、米シスコシステムズを含め、大手外資系企業で導入された。年長のリーダーが若手の社員とペアを組み、テクノロジーや文化の最新動向に関する情報を、若いパートナーが年長のリーダーに教える。

図2:米GEによるリバースメンタリングの実施例

 リバースメンタリングの関係においては、双方がメンターにもメンティーにもなる。デジタル時代の世代間ギャップを埋め、より効果的な競争を促す仕組みである。リバースメンタリングが上手くいくためには、これまで述べたHAVEの各要素が重要なことは言うまでもない。

 なお、デジタルボルテックスを解説した『対デジタル・ディスラプター戦略』(日経経済新聞出版社)が2017年10月24日に出版されている。こちらも、ぜひ、ご覧いただければ幸いである。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。