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- Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか
デジタルが国の競争力と未来を左右する【第11回】
国家戦略掲げ取り組む上位のシンガポールやデンマーク
では、上位ランキング国は、どのような取り組みを進めているのだろうか。総合第2位のシンガポールと、第4位のデンマークの取り組みを見てみよう。
シンガポールは、3つの評価要素のうち“知識”と“技術”の分野で第1位だ。新たなデジタル技術を身に付け、それを活用できるデジタルに精通した人材と、新たに開発されたデジタル技術を普及促進する政府の役割が高く評価された結果である。2014年に「スマート国家構想」を立ち上げ、デジタル技術によってイノベーションが活性化する環境を整えている(図1)。
これを受けて、イノベーション推進拠点をシンガポールに構えるグローバル企業が多く存在する。シスコもイノベーションセンターをシンガポールに設立し、同国でのイノベーション創出活動に注力している。シンガポールの競争力の源は、まさに知識の核となるデジタル人材と、デジタル技術の普及を後押しする環境にある。
一方、総合第4位のデンマークは“将来への備え”の分野で第1位にランキングされている。他国に先駆けて10数年前から国家として戦略的にデジタル化に取り組んできた。2018年1月には、デジタル化のフロントランナーを目指した国家戦略を発表している(図2)。
同戦略では、長年に渡って運用してきたデジタルプラットフォームをベースに、政府、学術・研究機関、民間企業、市民からなるデジタル化推進のフレームワークが形成されている。
たとえば、デジタル化された個人の健康管理データ(通院歴、カルテ、処方薬など)は、デンマーク版マイナンバー「CPR(Central Persons Registration)ナンバー」と紐付け、国民1人ひとりのデータを一元的に管理している。各自治体が保有する、さまざまなデータは、ビッグデータとしてオープンイノベーションを推進するためにも開放されている。
シスコは2014年から、デンマークの3都市(Copenhagen、Albertslund、Frederikssund)において、ビッグデータを活用した未来のデジタルインフラの取り組みを開始している。Copenhagenでは、インテリジェント照明ソリューションを検証する新プラットフォーム「Doll(Denmark Outdoor Lighting Lab) Living Lab」に参画し、デジタル技術によるグリーン化の促進とスマートシティのソリューション開発に取り組んでいる。
このような取り組みを将来に継承するためにデンマークは、若い世代を中心にデジタル化に対応できる人材育成に積極的かつ戦略的に取り組んでいる。さまざまな分野で、近未来のデジタル社会に向けた課題解決に果敢にチャレンジしているデンマークには学ぶべき点が多い。
なお、日経経済出版社から日本語に翻訳されたデジタル・ボルテックスの本『対デジタル・ディスラプター戦略』が2017年10月24日に出版されている。こちらも是非、ご覧頂ければ幸いである。
今井 俊宏(いまい・としひろ)
シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。