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未来は予想できても実現できるとは限らない、Amazonエフェクトに震撼するリーダー企業【第19回】
MaaSでつまずいたFord
米ラスベガスで2016年1月に開催された「CES 2016」において、米Fordは大手自動車メーカーの中でもいち早く「MaaS(Mobility as a Service:サービスとしての移動)の会社に自ら変革する」と訴えた。MaaSの可能性にいち早く気づき(ハイパーアウェアネス)、準備も進めていたことは見事であった。
しかし3年が経った今、Fordのトランスフォーメーション戦略は、軌道修正の段階にあるようだ。本連載の第17回でも取り上げたライドシェアサービス「Chariot」の事業を終了すると2019年1月10日に発表した。Chariotは2016年9月にFord Smart Mobilityが買収した企業である。Ford本体の業績も下り坂で、北米市場におけるセダンやハッチバック車からの撤退を2018年4月に発表している(図2)。
そのFordは2019年1月15日、独Volkswagenとの広範囲にわたる国際的な包括提携を発表した。EV(電気自動車)や自動運転技術、モビリティサービスの分野の開発で協力する方針である。MaaSの未来を予測しながらも、それを単独で実現するには荷が重かったようだ。
FordとVolkswagenといえば、それぞれが「T型Ford」、「Beatle」や「Golf」といった歴史に残る名車を世に送り出し、モビリティに大きな変革をもたらして来た。その精神を現代に受け継ぎ、魅力的な車やモビリティサービスが、両社の提携から生まれてくるのかも知れない。
しかしながら、自動運転では米GoogleからスピンアウトしたAlphabet傘下の米Waymoが大きくリードしている。2018年12月には、自動運転配車サービス「Waymo One」を米アリゾナ州のフェニックスで開始した。
2019年4月には、自動運転車両の生産工場を米国ミシガン州デトロイトに開設し、2019年中頃に稼働させると発表している。「Fiat Chrysler Automobiles(FCA)」や「Jaguar Land Rover」の市販モデルをベースに、Waymoの自動運転システムを組み込んだ車両を生産し、レベル4(高度運転自動化)の自動運転車を量産する計画だ。Fordにすれば自動運転の開発競争で険しい道が続きそうである。
継続的なトランスフォーメーションが不可欠に
既存企業が存続し続けるために必要な要素は、環境の変化に適応していく能力である。正しいもの、強いものが生き残るわけではない。そして、未来を予想できたとしても、それを実現できるとも限らない。
今回取り上げた、業界をリードする大手企業の状況からは、デジタルボルテックスの世界の“怖さ”が改めて理解できる。デジタルボルテックスの世界では、継続的に自らトランスフォーメーションし、変化に適応できる企業しか生き残れないのだ。
今井 俊宏(いまい・としひろ)
シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。