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未来は予想できても実現できるとは限らない、Amazonエフェクトに震撼するリーダー企業【第19回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年5月13日

SEARSは強みをデジタルと融合できなかった

 かつては米国最大の百貨店で、「SEARS」や「Kmart」などの小売り業者を傘下に置くSEARS Holdingsが2018年10月に倒産した。1893年にイリノイ州シカゴで創業し、125年の歴史を誇る米小売り大手の老舗ですら、Amazonエフェクトからは逃れられなかった。

 SEARSは、19世紀後半から20世紀中盤に経営改革とイノベーションによって成功を手にした。新しい市場を自ら開拓し、その需要を取り込むために新しい商品や組織、生産プロセスを整備してきた。たとえば1970年から1980年代に掛けて同社はカタログ販売モデルを成功させ、全米1位の小売業になった。環境の変化に適応し、必要なトランフィフォーメーションを自ら進めていたのである。

 ところが1980年代以降は、経済環境の変化に上手く適応できず、成長に陰りが見え始める。そこでSEARSが採った対応戦略は、店舗事業の強化とカタログ通販事業からの撤退だった。そこへ従来からの競合である米Wal-Martが「エブリデーロープライス」戦略を強化。さらに、インターネットとデジタル技術の台頭が追い打ちをかけた。

 残念なことにSEARSには、インターネットやデジタル技術と自社の強みであるカタログ通販を融合させる発想がなかったようである。カスタマーは、SEARSの店舗よりもAmazonでの買い物を選んだ。そのほうが圧倒的に便利だからだ。

 第18回で述べたように、小売業の分かれ道は、Amazonにはない消費体験を創造できるかどうかである。SEARSは、ライフスタイルや時代の変化に完全に乗り遅れてしまい、最後は息の根を止められた。自社の強みを十分に生かしながら、デジタル技術という新しい要素を取り入れ、自らトランスフォーメーションを起こすことができなかった結果である。

インダストリアルIoTを牽引したGEすら不調

 Amazonエフェクトの影響は小売業に留まってはいない。本連載でも何度か取り上げた米GE(General Electric)ですら例外ではない。

 GEは2018年6月、ダウ工業株30種平均の構成銘柄から外された。同社はダウ平均株価に最初に採用された会社の1つであり、100年以上に渡って業界のトップ企業であり続けた。組織のフラット化、品質管理手法の「シックスシグマ」や人事評価方法の「セッションC」の導入など、企業経営の世界では時代を先取りする存在だったGEですら、Amazonエフェクトからは逃れられなかった。

 2015年にGEは、「2020年までにソフトウェア企業のトップ10になる」という目標を掲げ、GE Digitalを立ち上げた。デジタルボルテックスの時代を生き抜くためにシリコンバレー方式のトランスフォーメーションを目指したわけだが、それは上手く機能していないようだ。

 この苦境から脱するためにGEは、航空機エンジンなど本業である製造業に経営リソースを集中する戦略と、パートナーシップによるテコ入れを図る方法を選択している。2018年7月には米Microsoftとの提携を発表し、自社単独で進めていたクラウド構想「GE Predix」を放棄し、MicrosoftのAzureをPredixソリューションの標準クラウドプラットフォームに位置付けた。

 2018年12月にはPredixを手がけるデジタル事業部門GE Digitalの分社化を発表。在庫管理や設備保全作業のスケジューリングに有力なフィールドサービス管理ソフトウェアを手がけるServiceMaxの売却も決めた。2016年に買収したばかりの企業である。

 過去、世界で1位か2位になれる事業だけに注力するという“選択と集中”で大きな成功を収めてきたGEではあるが、険しい道が続きそうである。