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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松市の「データに基づくスマートシティ計画」の全貌【第3回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年1月18日

(2)IoT導入による新たなデータの収集と活用

 IoTはスマートシティプロジェクトには欠かせない重要インフラである。オープンデータを補う形で、リアルタイムに地域や住民のデータを集められるからだ。

 たとえば、福島県は東日本大震災によって原発事故問題を抱えたこともあり、市民の多くはエネルギーに対する関心が特に高い。このような固有の事情も踏まえたエネルギー改革として会津若松では、省エネルギーの徹底と再生可能エネルギーへの移行促進を両輪で推進している。

 エネルギーに関するプロジェクトの詳細は別の回で詳述するが、会津若松市ではすでに、省エネルギーを推進するために各家庭の分電盤にセンサー(HEMS:Home Energy Management System)を取り付け、エネルギー消費量を把握できるようになっている。そのデータを元に、エネルギーの消費状況と省エネのためのアドバイスを市民(=データ提供者)のスマートフォンに提供することができる。

 IoTを使ったヘルスケア事業では、市民モニターに、バイタルデータが取得できるウェアラブル時計やベッドセンサーなどを提供し、カロリー消費量や心拍数などを取得している。それら自身のバイタルデータに基づいて推奨する食事のレシピなどを提供するサービスも誕生した。さらにデータ提供者本人のためだけに、バイタルデータを活用した健康推進サービスの開発も検討を進めている。

(3)データの見える化で市民意識を改革する

 データは提供し活用して初めて価値がある。すなわち、データを収集して保護するだけではなく、それを分析し、レコメンデーションを含めたフィードバックをデータ提供者や地域に還元することで初めて価値が生まれる。たとえば、前述したエネルギーデータの見える化では、最も効果が得られる夏季には27%のエネルギー消費の削減を実現している(会津地域スマートシティ協議会調べ)。

 市民はこれまで、電力使用量については、月末にポストに投函される検針票をみて、結果データとして知るしか手段はなかった。「先月は電気使いすぎたかな?」と、その場では反省するかも知れないが、具体的な行動変容は起こりにくい。これが、ほぼリアルタイムに電力使用量が見えることによって、家族のだれが何のために使用しているかが判明する。可能な限り無駄を省くなど省エネ行動が確実に進んできている。

 データを見える化することで、人は行動変容を起こしていく。そして、スマートシティに参加している市民一人ひとりが行動変容を起こすことが、街全体のスマート化につながるのである。

 IoTヘルスケアプロジェクトも同様だ。自身のバイタルデータを提供することで、自身の健康維持につなげていこうという新たな行動変容である。市民が健康長寿になることは、自身や家族にとって大きな幸福を享受できるが、それが市民全体の行動変容になれば、やがて自治体や国が負担する医療費の抑制にもつながるのではないだろうか?(本プロジェクトは2016年に開始したプロジェクトであり、現時点で医療費抑制につがなる結果を得るまでには至っていない)

 市民がデータ提供について、きちんと理解するためには、会津地域スマートシティ推進協議会のような地域をリードする中核メンバーで組織した運営団体が責任をもってデータを管理する体制づくりが重要である。

 会津若松市では、まずはエネルギーデータなど、プライバシーレベルが比較的高くないデータの収集・活用による成果を示している。その成功体験があったため、よりプライバシーレベルが高いデータを扱うIoTヘルスケアプロジェクトについても市民の理解を得たうえでスタートできた。こうした市民の理解浸透を着実に図っていくことが重要なのだ。

データ活用が地域のデジタル化を推進する

 データ活用の成果として、市民の行動変容を確認できれば、地域のデジタル化の下準備は整い始めていると言っていい。ただし、地域により多少違いはあるかもしれないが、新たなサービス提供に参加する市民層は、いわゆるイノベーター論でいう「イノベーター層+アーリーアダプター層」にすぎない。

 スマートシティサービスのメリットや成果を広く市民に認知してもらい、市民生活の日常に入っていってこそ、実証フェーズから実装フェーズにステップアップしたと言える。より多くの市民に参加してもらうためには、それぞれの市民が興味を持つデータを提供できるかどうかが鍵を握る。

 会津若松市では、都市経営を網羅した8領域(エネルギー・観光・健康医療・教育・農業・ものづくり・金融・移動手段)と、データサービスのカテゴリーを幅広く対応を進めている。たとえば、農業データには関心がないが冬場の電気代が気になる主婦や、観光客データに興味がある土産物店主、今後の地域医療の維持・継続に向け予防医療を充実させるためにヘルスケアデータに関心がある医療関係者など、様々な観点から市民の関心に対応している。

 世代別にポイントになるデータサービスを用意する必要もあろう。会津若松市では、妊娠・出産を控えた市民には母子健康サービスを提供しているほか、小・中学生を抱える家庭には公立学校と家庭をデジタルデータでつなぐサービスを提供している。デジタルになじみの薄い高齢者には、一見するだけで常用薬を飲むタイミングが分かる「IoT薬箱」なども実証している。

 このように、幅広いカテゴリーと異なる世代に対してサービスを提供することで、生涯にわたるデータを収集し、その時点時点で必要なカテゴリーデータサービスを提供できるようになれば、地域のデジタル化は完成に向かうと考えている。

 次回は、データアナリティクス人材育成事業について触れる。今回解説したデータ戦略と合わせて、会津若松市のスマートシティ実現に向けて、まず取り組み始めた事業である。デジタル化に必要な高度IT人材に求められる能力や会津大学と共に取り組むデータアナリティクス人材の育成について解説したい。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。