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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津でエプソンがオープンイノベーションを推進する理由【第32回】

セイコーエプソン 執行役員 𠮷田 潤吉 氏に聞く

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2020年10月26日

会津のシンボルである鶴ヶ城(若松城)を望むICTオフィスビル「スマートシティAiCT」。オープンから1年が経ち、入居企業も増えている。AiCTの入居企業同士や地元企業とのコラボレーションによって、新たなスマートシティサービスが生まれている。今回は、会津をオープンイノベーション(共創)の拠点に位置付けるセイコーエプソンの執行役員である𠮷田 潤吉 氏に、その狙いなどを聞いた。(文中敬称略)

 会津のシンボルである鶴ヶ城(若松城)を望む立地に「スマートシティAiCT(アイクト)」が開所して1年半が経過した。会津から発信される「日本型スマートシティ」の取り組みに共感・賛同する企業は日々増え、AiCTに入居する企業もまた着実に増加している。

 「人やモノと情報がつながる新しい時代を創造」を経営の10カ年計画に掲げるセイコーエプソンも、AiCTを“オープンイノベーション(共創)の拠点”に位置付けて居を構えた1社である。同社が目指すデジタル社会のビジョンや日本各地で進めている取り組みについて、執行役員 DX推進本部 副本部長 兼 プリンティングソリューションズ事業部 副事業部長の𠮷田 潤吉 氏にご登壇願う。(文中敬称略)

創業来、地元との付き合いを大切にしてきたエプソン

中村 彰二朗(以下、中村)  アクセンチュア・イノベーションセンター福島(AIF) センター共同統括の中村 彰二朗です。セイコーエプソン(以下、エプソン)は、「信州・信濃国」の伝統的な名前を県民が愛する長野県が誇る、ものづくり企業であり、日本を代表するグローバル企業の1社です。

 2020年7月1日にエプソンは、オープンイノベーション拠点をAiCTに開所されました。新拠点では何を目指されるのでしょうか。

𠮷田 潤吉 氏(以下、𠮷田)  セイコーエプソン 執行役員 DX推進本部 副本部長 プリンティングソリューションズ事業部 副事業部長の𠮷田 潤吉です(写真1)。エプソンは今、2016年に発表した10カ年計画の長期ビジョン「Epson 25」の5年目で、現在は「第2期中期経営計画」を遂行しています。

写真1:執行役員 DX推進本部 副本部長 兼 プリンティングソリューションズ事業部 副事業部長の𠮷田 潤吉 氏

 同計画の基本方針ではオープンイノベーションが重要なキーワードになっています。このたびAiCTに開いた新拠点も「パートナーとともに社会課題の解決に向けたサービスを創出すること」を目的にしています。

 オープンイノベーションへの取り組みとしては第1弾として、2020年5月に東京・渋谷に拠点を設置し、スタートアップ企業とのコラボレーションを始めました。会津若松の新拠点は第2弾の展開です。スマートホームや教育改革などに取り組む予定です。すでに「会津オープンイノベーション(AOI:あおい)会議」を通じて会津大学との連携もスタートしています。

 この対談の直前にも、AiCTについた途端、来訪中だった商工会の皆様をAiCT取締役の藤井さんからご紹介いただきました(笑)。オープンなマインドで、どんどんネットワークが広がっていますし、交流の機会が増えているのを実感しています。

 エプソンは世界中で事業を展開しており、それぞれの地域と共にビジネスを成長させてきました。一方で創業の地でもある信州との結びつきも大切にしています。本社のある諏訪市や、事業拠点が集中している塩尻市、松本市は私たちにとっての「地元」です。

 これらの地域は環境への取り組みも積極的で、たとえば塩尻市は当社が開発した、水をほとんど使わずに古紙を再生できる製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」をいち早く導入されています。古紙再生には水の大量消費という課題があるのですが、PaperLabは水資源の保全に貢献できるのです。

 こうした活動の根底にあるのが「人々の暮らしをより良くしたい」という発想です。生活の質の向上や豊かな自然の継承に知恵を絞り、行動することは、私たちの責務でもあると思います。