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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松での9年間の活動で見えた市民によるデジタルイノベーションのカギ【第34回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2020年12月24日

2011年3月11日の東日本大震災から間もなく10年を迎える。同年8月から会津若松市を復興拠点としたスマートシティプロジェクトに取り組んでいた。2020年を締めくくるにあたり、会津若松市における9年間の活動から見えてきた「市民によるデジタルイノベーション」のための6つのカギを紹介したい。

 地域のデジタルトランスフォーメーション(DX)は市民の参加、および、そのためのマインドセットのチェンジなくしては成就できない。2020年末の今、日本政府は平井 卓也デジタル改革担当大臣のもと「デジタル庁」の設置準備を進めている。その成功には、国民がデジタル社会を正しく理解することが不可欠だ。腹落ちするまで理解し行動変容が起きることで、日本のDXが加速するのではないだろうか。

写真1:筆者のアクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括の中村 彰二朗 氏

 そうした「市民によるデジタルイノベーション」を成功に導くためのカギとして以下の6つを挙げたい。

カギ1:「一市民」という立場を優先付けする

 筆者はアクセンチュアのコンサルタントである前に会津若松市民である。このことは、デジタル化、スマートシティ化の取り組みに携わるにあたり、自分自身に徹底してリマインドしてきたことだ。

 そしてプロジェクトを共に進める方々には、それぞれの肩書の前に会津若松市民であるということを幾度となく申し上げてきた。会津若松市長も市議会の議長も商工会議所の会頭も、会津大学の学長も地元有力団体の会長も、地域の有力者として活躍されてきた方々もである。

 20世紀は「行政主導・大企業主導の時代」と言われ、私たちは常に組織人としてのミッションを念頭に思考する癖が染みついている。「クライアントファースト」「市民ファースト」という言葉も登場したが、これらの言葉は「クライアント/市民と自身は別だ」と“はっきり”と線引きしてしまう言い回しでもあり、時に上から目線の言葉に聞こえてしまう。

 筆者は、スマートシティプロジェクトを推進するにあたり、「オープン・フラット・コネクテッド・コラボレーション・シェア」の考え方を常に意識している。多くの市民と“オープン”かつ“フラット”に意見交換し、腹落ちしたら“コネクテッド”して、可能なことは“コラボレーション”し、最終的に“シェア”するように心がけてきた。

 その際には、「アクセンチュアの中村」という組織人としての立場ではなく、あくまでも会津若松市民として「まちにどんな課題があり、何を優先して解決していかなくてはならないのか」を考えるようにしてきた。そのうえで市民同士、皆みんなで合意できた内容をプロジェクトに落とし込むにあたり、アクセンチュアとして何ができるかを考えるようにしてきた。

 これらは思考するプライオリティを変更したに過ぎないが、この基本が最も大切だと思う。これまでのIT化は組織内の効率化であったのに対し、地域DXはスマートシティという地域全体を対象とするプロジェクトである。組織と組織の隙間にあって実現できなかったサービスを拾い上げる必要がある。

 だからこそ思考時のプライオリティを変えて、まずは「一市民」として向き合う必要があるのだ。東京に居て日本全体をイメージすると、まるで東京が富士山の頂上で、地方という、すそ野まで綺麗につながっているように見える。そして上手くいっているように見えてしまってきたのだろう。

 しかし地域DXは、人間と人間をつなぎ、それぞれの視点から見て綺麗につながって見えるようにすることを目指して社会の現状を一旦、あえて一から見直して解きほぐし、最適に組み直していく取り組みだ。この9年間で、地域DXがこのようでなければ進まないという基本を学んだ。

カギ2:意見より行動

 スマートシティ、地域DXに取り組むうち、日本でのイノベーションを難しくしている「16%の壁」という存在があるように思われた。例えば、マイナンバーカードの普及率である。昨今の定額給付金やポイントキャンペーンの効果から足元で18%まで伸びたが、それまでの普及率は16%(2020年4月時点)だった。

 ほかにも再生可能エネルギーの導入率(2017年時点)や、2020年6月に配信が開始された新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」のダウンロード率(2020年11月時点)も16%である。スタートし普及率が約16%になった段階で一旦落ち着いてしまう。

 再生可能エネルギーを例にとってみよう。菅政権は「2050年カーボンニュートラルを達成する」と宣言し、福島県の内堀知事は「2040年再生可能エネルギー100%」を宣言している。

 日本は2011年3月11日の福島原発の事故を経験し、エネルギーの完全自由化に踏み切り、再生可能エネルギーへのシフトに舵を切ったかのように見えた。でも国民がついてこない。再生可能エネルギーを大手電力会社が買い取らないとの批判が相次いだ時期もあったが、大元は国民が電源を再生可能エネルギーに切り替えていないからである。

 国民が今、できることは再生可能エネルギーを購入することだ。国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)のバッチをつけることではなく、実際に行動することである。総論に賛成したならば、自分に影響のある各論にも賛同し、国民一人ひとりが実際に行動することで日本にもイノベーションが起きるだろう。