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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松市の「データに基づくスマートシティ計画」の全貌【第3回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年1月18日

データは、ヒト・モノ・カネに並ぶ4番目の経営資源になった。そのデータ(ビッグデータ)は、ネットサービス企業だけでなく、あらゆる産業を変革に導いている。では、スマートシティの大きな役割である今後の地域経営においては、データは、どのように活かしていくべきだろうか?スマートシティ計画の中核をなすデータ活用を会津若松市が、どう推進してきたかを解説する。

 昨今は、経営戦略の妥当性検証や戦略性のリスク把握など、経営判断のための重要な材料をビッグデータおよびデータ分析に基づいて判断するようになっている。政府もまた「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を閣議決定。「官民データ活用推進基本法」(2016年12月に成立・施行)や「個人情報の保護に関する法律」(2017年5月に改正法施行)など、関連する法律を整備するなど、「すべての国民がIT利活用やデータ利活用を意識せず、その便益を享受し、真に豊かさを実感できる社会」の実現に向けて大きく舵を切っている。

 第1回でも触れた通り、会津若松市のスマートシティ計画の特徴は「ビッグデータ・アナリティクス産業を創出することによる地方創生」である。会津地域スマートシティ計画の実現によって、データ活用サービス関連産業の誘致につなげ、地域経済への貢献を目指す。これは、デンマークとスウェーデンをまたぐ「メディコンバレー」を参考にしたモデルだ。

 メディコンバレーは、産学官連携で電子医療情報(EHR:Electronic Health Record)を集積・データベース化し、分析活用することで、EU(欧州連合)最大の医療・健康産業クラスターをなしている。300以上の企業が集積し、両国のGDP(国内総生産)の20%の経済効果を創出しているとも言われる。データは重要な経営資源であり、その分析は今後の経営戦略に、もはや欠かせないものになっている。

 会津若松市は、デジタル化を牽引する地域になり、データ関連産業の実証フィールドとして、データを活用した産業クラスター、いわば日本での「ディープデータバレー」を目指している。地域・市民データを活用して新たな市民サービスを生み出していく。そのために、(1)積極的なオープンデータ化や、(2)IoT(Internet of Things:モノのインターネット)によるデータ収集基盤の整備、(3)データ提供に対する市民と行政の理解の浸透を進めながら、会津大学とともにデータアナリティクス人材を育成しているのである。

 以下では、(1)から(3)の取り組みについて詳しく紹介する。

(1)オープンデータ戦略による既存データのオープン化と活用

 どの自治体にも多くの地域データがすでに蓄積されている。住民関連から健康関連、財政関地域資源関連、観光関連、地域産業関連、教育関連などなど、行政運営のために必要なデータの多くが、形式が統一されていないまでも、デジタル化され保存されている。

 その生データを活用できるようにするためには、データをオープンデータプラットフォームに移植すること、目的に応じて活用しやすいように整理すること、プライバシー保護を十分に配慮したうえで市民に広く公開していくことが重要だ。これが「オープンデータ戦略」である。

 さらに、データアクセスのためのAPIを整備・標準化して、市民自らがオープンデータを使って新たな市民サービスを開発・提供できるようにうながす必要もある。学生やIT関連従事者などを巻き込んでソフトウェア開発などのアイデアを競う「オープンデータハッカソン」も、そのための取り組みの1つだ。これらを繰り返すことが、市民参加型の地域活性化へつながっていく。

 官民データ活用推進基本計画ではKPI(重要業績評価指標)として、2020年度までにすべての自治体がオープンデータに取り組むことが定められている。会津若松市は2013年の時点で、オープンデータプラットフォームとなる「DATA for Citizen」を整備した(図1)。現在は、133のデータが一般公開され、それらを活用した市民のためのアプリケーションが43も開発・提供されている。

図1:会津若松市のオープンデータプラットフォーム「Data for Citizen」の画面例

 Data for Citizenを使ったハッカソン等でも、いくつかのサービスが開発されている。その1つに、行政が持っている消火栓の位置データをWeb上の地図に示すというシンプルなサービスがある。会津地域では冬の間、消火栓が雪に埋もれてどこにあるのかが分からなくなるケースがある。このサービスが提供されてからは、消防隊は事前に消火栓の位置を把握でき、冬の消火活動にスムーズに取り組めるようになった。

 これらのオープンデータは消防隊だけではなく、市民にも活用されている。移動するバスや除雪車情報をGPS(全地球測位システム)と連携させ、スマートフォンの地図上で参照できるようになったことで、寒いバス停で長時間待つ必要がなくなったり、除雪車がいつ来るのかいちいち市役所に電話確認したりする必要がなくなった。

 行政が持っていたデータを市民の発想・参加によって、簡易に新たなサービスを提供できるように環境を整えたことで、会津若松市ではオープンイノベーションが起き、促進され始めている。