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2020年に本格化するスマートシティ、会津から全国へ【第25回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2020年1月23日

ビジョンを共有し守るべきルールを徹底

 図3は、スマートシティを検討するときの論点をまとめたものだ。これら10項目を整理することで、自ずと自分たちが目指すスマートシティの骨格が見えてくるだろう。

図3:スマートシティアーキテクチャーの論点

 そのうえで、前述したように、モデル図を作成し、広くオープンにして参加者を募り、メンバーみんなでシェアすることが重要だ。これにより、多くの企業や団体がかかわるスマートシティプロジェクトであっても、重複をなくし、同じ目標に向かえるのである。

 そのための施策の1つに、スマートシティAiCTでは月に1度、入居企業の責任者が参加する「センター長会議」を開催している。さらに3カ月に1度は、各企業のメンバーも出席する「プロジェクト進捗会議」を開催する。各社が個別に実施しているプロジェクトの情報をシェアすることで、全体のガバナンスを維持するためだ。

 たとえば、ある会議でA社が、観光で会津を訪れる車のナンバーをカメラで撮影し、どこから来たか、マイカーかレンタカーかなどを画像認識し、観光に役立てたいと提案したことがあった。

 この提案を全員で協議し、プライバシーにかかわるデータの扱いに配慮し、所有者を特定できる個別のナンバーは取得しないことなどを合意した。データ提供者の承諾を得てデータを活用する「オプトイン」を前提とする会津プロジェクトのルールを徹底するためには、こうした情報のシェアと協議、意思決定が不可欠なのだ。

 全員がモデルを理解し共通ルールを守ることで、スマートシティ全体が維持されることを十分に認識してほしい。多くの企業・団体が関わるスマートシティプロジェクトにあって、どれか1つでもルールを逸脱し、市民や観光客からのクレームにつながれば、プロジェクト全体が止まってしまう可能性があることを肝に銘じなくてはならない。

標準化が、より地域らしいまちづくりを可能に

 会津若松では現在、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業」の一環として、日本の標準モデルとなるスマートシティアーキテクチャーを設計中である(第23回参照)。2020年春頃をめどに、全国の自治体は、そのホワイトペーパーとガイドブックが参照できるようになる。

 各省庁のスマートシティ関連プロジェクトでは今後、このアーキテクチャーを参照して申請することが条件になる予定だそうだ。API(アプリケーションプログラミングインタフェース)群はカタログ化し、リファレンスサイトからオープンソースとして展開することで日本型標準モデルの推進を検討している。

 自治体やスマートシティ推進協議会など、各地域のスマートシティプロジェクトを主導する団体は、この日本型標準モデルのアーキテクチャーを順守するよう調達仕様に明記してほしい。サービス構築側も是非順守してほしい。

 第24回の繰り返しになるが、スマートシティアーキテクチャーの標準化とは、すべての街が同じになってしまうことではない。むしろその逆だ。1700以上ある日本の自治体がこれまで、それぞれのシステムを維持するために掛けてきたコストや負担を軽減し、システムを効率的かつ迅速に実装・更新することで、地域の特性を生かした街作りが可能になるのだ(図4)。

図4:地域の特性を活かすにはプラットフォームの標準化が必要

 図2に示したモデル図の下段は、各地域の非競争領域だ。このプラットフォームを共通化することで、効率化が図られる。そして上段の産業分野こそが地域の産業特性を引き出すべき領域であり、地域の魅力を生む競争領域である。

 この競争領域に注力するために、非競争領域のプラットフォームの標準化が必要なのだ。既存の自治体システムは全国各地でバラバラだが、今後のスマートシティでは標準化を成就させなければならない。

 2020年はスマートシティプロジェクトがいよいよ本格化する年になると筆者は考える。日本が抱える社会課題をスマートシティプロジェクトを通して解決していくためにも、各地域が連携することが最も重要になるだろう。「オープン・フラット・コネクテッド・シェア」の思想で、是非実現していきましょう!

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。