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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

ポストコロナが求めるスマートシティ、自律分散社会の実現へ【第30回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2020年7月22日

共通と標準による地域分散と国の統一とを使いこなす

 自律分散社会の実現においては、地方だけでなく、国との連携も不可欠だ。会津若松市は、「会津若松+(プラス)」という市民ポータル(データ連携基盤)を持っている(第5回参照)。そこでは、市民自らがオプトイン(データ利活用について市民から事前に同意・承諾を取るモデル)により参加し、必要なサービスを自ら選択しながらパーソナライズされたサービスを受けられる。

 一方、政府が運営する「マイナポータル」は、日本国民すべてに共通化されたサービスを提供する。これら両者を組み合わせることで、地域特性を活かしつつ、同様のサービスを必要とする他地域への展開をも促し、政府共通サービスとの連携へとつながっていく。

 今後は地域ポイントや地域通貨など、地域が工夫を凝らし自立する上で独自のサービスが提供されるだろう。だがインセンティブサービスのための標準のプラットフォームが必要となると考える。

 たとえば2019年10月に消費税が10%へと増税された際、軽減税率対応のために経済産業省は、デジタルキャッシュ推進策としての5%還元キャンペーンを実施した。従来の決済ベンダーに加えて、多くのデジタルサービス企業が参入したことも記憶に新しいが、早くも淘汰が始まっており、一部企業への寡占化が進んでいる。

 会津若松市におけるデジタルキャッシュの活用推進では、地元商店が負担する手数料を極力低く抑えることと、会津若松プラスのIDと連携することによりIDに紐づけられた購買履歴を市民のオプトインにより収集できるようにする方針を固め、2019年度は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として医療現場で実証した。今後、広く展開する計画である。

 これにより、購買データによる示唆を利用者個人にフィードバックできるだけではなく、地域経済発展のために活用できるようになる。本サービスは、ITサービス会社のTISと共同で開発しており、2020年度の拡大を目指している。

 政府としてはデジタルガバメント化を一気に進めることになると考えられる。だが、国は全国共通化すべきサービスを担い、地域は標準化された都市OS上で地域の事情に合ったサービスを実現できるように役割を明確に切り分けたうえでプラットフォームを整備するべきである。

 その際に、公的個人認証などの全国統一サービスとはマイナポータルのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)と連携すれば、厳格な本人確認が実現できる。

地方の生産性を30%高める

 自律分散社会の実現において、強く認識すべきは「地方は伸びしろだらけである」ということだ。

 日本はGDP世界第3位の経済規模を誇るにもかかわらず、その労働生産性は経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国中21位にとどまっている。ここを打開していくためには、国内企業数の99%を占める中小企業のテコ入れが不可欠である。

 特に地方は、都市圏に比べても中小企業の占める割合が高い。地方の中小企業の生産性を高めていくことが、日本全体の生産性向上に直結しているといっても過言ではない。

 筆者は会津に移住して、ちょうど9年になる。地域の方々が、それぞれの業種において最大限尽力されているのを目の当たりにしている。その一方で、デジタライゼーションによる恩恵を受ける余地が大いにあることも日々感じている。

 たとえば、地域のものづくり中小企業では、生産管理責任者である工場長は全体を把握するために自ら目視によるチェックを徹底し、営業責任者はラインの稼働状況をリアルタイムには把握できないまま案件獲得に奔走し、そして社長は資金繰りのために忙しい毎日を過ごしている。

 こうした実態をデジタルの力で支援できないだろうかと思案し、すべてのプロセスをつなぎ、見える化するための開発を2年前から始めている。「会津産業ネットワーク(ANF)」に加盟する地域製造業の皆さんとアクセンチュアが連携し、非競争領域での共通プラットフォームの実現に向けて研究調査している。

 解決の糸口が共通プラットフォームの導入によるデジタライゼーションにあることが見えて来た。当初目標として、生産性を30%高め米国との差を埋めることを目指してきたが、現時点で25%向上までが見えてきている。

 このモデルが実現し全国へ展開できれば、地方のものづくり中小企業は、日本の成長のエンジンンに生まれ変われると確信している。

スマートシティは行政区よりも生活圏で考える

 今後、全国各地で都市OSの導入が進んでいくものと思われる。だが、市民が利便性やメリットを感じられるものになるためには、都市OSに連携するサービスが重要になる。どのようにスマートシティのサービスを実現するか。ここでは細かな各サービスではなく、サービスを提供する地域の範囲について考えてみよう。

 読者の皆様が住んでいる場所、職場、さらには買い物や通院、習い事、行きつけのお店などは、1つの自治体の中で完結しているだろうか?

 会津若松市では、市役所職員の30%程度は近隣自治体の住民であり、隣町の工場に多くの会津若松市民が通っている。当市の中核病院である竹田病院には会津地域全体から患者が通院している。私が東京に住んでいた頃、住まいは世田谷区、勤務地は港区、医療は中央区、買い物の多くは渋谷区だった。読者においても、複数の自治体・行政区を行き来して生活している方が多いのではないかと思う。

 以前、東京23区の、ある区から会津若松市に視察に来られた際、「区としてスマートシティを検討したい」とうかがったことがある。だが、生活圏全体で考えることが、市民中心のスマートシティの実現には重要であると提言差し上げた。つまり、市民主導のスマートシティを目指すのであれば、市民生活の異なる分野を網羅できるよう、データの共有環境を整備しなければならない。

 多くの地方都市がスマートシティを計画し進行するなかで、市民を中心に、市民のデータによるデータ駆動型スマートシティを実現するためには、周辺地域との連携が重要である。その範囲は生活圏を意識したものであるべきではないだろうか?

 会津若松市は、観光推進事業のデジタルDMOにおいて広域7市町村で共同サービスを提供してきた。従来なら各自治体の観光課などが個別に取り組んできた事業である。

 しかし観光客の視点から見れば、行政区を意識することなく会津地域を訪問し、会津若松市で鶴ヶ城を訪れ、南会津では大内宿を訪ね、磐梯山に登り、五色沼を散策した後に喜多方市に出てラーメンを食べるといったコースを巡ることだろう。市民に対するスマートシティサービスにおいても、同様の市民目線が求められる。

 今回は連載第30回の節目として、ポストコロナと会津若松市での経験から学んだ自律分散社会の実現に向けて必要な中核となるプラットフォームの考え方を中心に現状と、今後に向けた視点をまとめた。

 次回からは、各種プラットフォームの整備に共に取り組んでいるパートナー企業を交えながら、最新の動きについて議論していきたいと思う。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。