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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

ポストコロナが求めるスマートシティ、自律分散社会の実現へ【第30回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2020年7月22日

日本全体が東京オリンピック/パラリンピックに向けて盛り上がっているはずだった2020年。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により一変し、全国の経済活動が停止または停滞している。この状況をみて、9年前の東日本大震災のことが思い出された。データを自分ゴトとして判断する重要性を思い知った、その時の体験が、会津若松市のスマートシティプロジェクトへつながり、デジタル基盤としての都市OSが整備された。ポストコロナ時代には、自律分散社会の実現が、これまで以上に求められるのではないだろうか。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、2020年の世界は大きく変わってしまった。日本では4月16日には緊急事態宣言が全国に拡大され、経済活動が停止した。宣言が解除された今も、感染第2波に備えた予防・対策が継続している。会津地方は7月20日時点まで「感染者ゼロ」が続いているが、首都圏と同じように経済は停止せざるを得ない状況にある。

 この状況を見て筆者は、9年前の東日本大震災後の会津地域の風評被害の経験を思い出した。規模こそ東北地域に限定されたが、会津地方は直接的な被害が限定的だったにも関わらず、原発事故を抱えた同じ福島県ということで風評被害に遭い、経済活動が停止した。

 アクセンチュアは復興支援の一環として2011年8月には会津若松市内に拠点を構えていた。筆者も会津地方で生活し、「ガイガーカウンターの測定結果に問題はない」とどれだけ発信しても、風評被害は抑えられなかった。

 未知なる心理的恐怖が人を動かすことを痛烈に感じた。客観的なデータを示すだけでなく、市民がデータを“自分ごと”として捉え自分で判断する環境づくりが重要なのだと思い知らされた。

 この時の体験が、その後のスマートシティプロジェクトへとつながっている。あれから9年が経った今、市民・地域主導のスマートシティプロジェクトは進化し、そのデジタル基盤となる「都市OS」のアーキテクチャーも整備された。

 ここで「感染予防を取るか、経済を取るか」という、時に政治的にも取られる議論に参加するつもりはない。しかし、有事に日本全体で一律に経済を止めてしまうのではなく、経済を止めるべき地域を限定し、活動可能な地域が連携しながら日本全体を動かしていける「自律分散社会」の実現が、これまで以上に求められているのではないだろうか。

自律分散社会の前提はライフラインの持続可能性

 自律分散社会に向けて、まず確認しなくてはならないのが、ライフラインの持続可能性である。地域の資産を見直し、ライフラインを“地産地消”で手配できるのか、あるいは他地域から入手経路をグリッド化し複数整備できるのかなど、その持続可能性を担保することが前提になる。

 会津若松市では9年前、スマートシティを始めるために地域資産を棚卸しした。会津地域は多くの分野で地産地消が可能な地域であることが分かった(図1)。200万キロワット以上の再生可能エネルギー(水力・木質バイオマス発電・風力・地熱・太陽光)による発電、猪苗代湖をはじめとする湖や豊富な地下水、主力産業である農業、それらに支えられた医療機関や産業などである。

図1:インフラの持続可能性担保に向けて重要な地域資産を棚卸し。図は会津若松市の例

 電力は現在、オフグリッド時の対策は施されていない。だが歴史をたどれば、もともと会津電力として別系統の電力網であったことを考えればブラックアウトを防ぐことも可能だろう。

 都市OSが稼働するインターネットは、通信を止めることがないようにネットワークはグリッド化されている。その上で創造され運用される都市OSも同様にグリッド化され、オン/オフ・スイッチングが可能なプラットフォームを目指している。

 自律したそれぞれの都市OSは、平常時は、それぞれの地域の都市OSが連携することでスケールメリットを実現する。そして有事には、活動可能な都市のみが自律分散的に連携する(図2)。そのためには都市OSの標準化が不可欠だ。標準化により、分散と集中の良いとこ取りが実現できる。

図2:標準化した都市OSをベースにした地域連携のイメージ

 都市間の連携を可能にする都市OSの標準化は、自律分散社会の実現のカギになる。内閣府は2019年、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業の一環として、都市OSの標準化の指針を発表した。その第1版の作成には、アクセンチュアも携わっている。