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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

ソフトバンクが「会津若松デジタルトランスフォーメーションセンター」を設置した理由【第33回】

ソフトバンク 法人事業統括シニアテクノロジーエグゼクティブ 石岡 幸則 氏に聞く

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2020年11月19日

その場で生活せずに地域のスマートシティ事業に取り組めるか?

石岡  とはいえ、スマートシティのサービスを検討・実現していくうえでは、他社との共創(オープンイノベーション)が極めて重要です。ソフトバンクでは、この共創の精神が経営幹部に浸透しています。

 実は、創業者の孫正義には恩人と呼べるほど敬愛している偉大な方々が複数おり、そのうちのお一人が共創を何より大切にされていたのです。スマートシティや地方創生への取り組みにおいても、ソフトバンクでは共創の思想と価値観を持ち、さまざまな会社や組織とタッグを組んで進めていこうと考えています。特に会津においては、会津大学と共創していきたいと考えています。

中村  「地方創生の取り組み」という観点では、ソフトバンクはすでに日本各地に実績をお持ちです。

石岡  はい、メディアを通じて、さまざまな取り組み状況を発信しています。一方で、自分たちも取り組みを進めていくうちに、ある重要なことに気づいたのです。それは、地域を元気付ける活動の提言や実行を進めていても、その活動を推進するメンバーの多くが、その場所で生活していないことです。だからこそ「ここでやっていこう」と、自らが市民の一員になって取り組んでいるアクセンチュアに感銘を受けたのです。

中村  はい、私たちはビジネスパーソンである以前に市民なのです。実は最近は、「市民ファースト」という言葉を使っている限り、真に市民と同じ視点に立っているとは言い難いのではないかと考えています。そこには対置的な構造があり、寄り添おうとはしていても自身を当事者としていません。

 私たちはスマートシティの取り組みを外部から提供する者でなく、自分自身も1人の受益者として街のことを考え、サービスを創ることが真に当事者になることだと考えています。

石岡  「根を下ろす」というのは、まさにそういうことですね。私は会津に来て驚きました。街のあちらこちらに「あいづっこ宣言」が掲げられています。そうした教育に支えられて、地域としての自律心や独立心も強い。この街でなら成功モデルを作れるに違いないと感じました。

 そこに、デジタルトランスフォーメーションセンターを会津に置くことにした理由があります。他の自治体に、「会津若松市に学び、会津地域にならって自分たちも、そのようになりたい」と思わせる第1陣の成功モデルを実現したいのです。報道を見ると福島県の中では「浜通り、中通り、会津」の順で紹介されがちですが、最近では色々な取り組みが「まずは会津」になってきています。

中村  震災後のライフラインとインフラの「復旧」という点では、浜通りと中通りが最優先されました。ですが「復興」フェーズにおいては対等な関係です。県としても会津地域のスマートシティに注目していると強く感じます。

 石岡さんご自身も、地方に関する課題意識を強くお持ちなのですね。

石岡  はい、私は青森県出身です。地方をどう盛り上げるかは、自分のふるさとをどう元気付けるかというテーマに直結しています。だからこそ会津が非常に進歩的なので、来てみて驚きました。

 一方で、日本は東西で市民の価値観やカルチャーも大きく異なります。共通基盤を使いながらも、その土地、その土地の特性にあった展開が必要ですね。

中村  おっしゃる通りです。人の交流と移動をベースに考える「生活圏」の発想で地域社会を整理していくことが自然だと考えます。

 都市OSの展開先としては今のところ、西日本の自治体の割合が高く、東日本、特に東北地方は、まさにこれからです。県庁でも市役所・町村役場でも、感度の高い職員がアクションを起こすことが活動の起点です。私たちも積極的に働きかけますが、課題意識を持っている職員の方々にぜひ声を上げていただきたいですね。