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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
ソフトバンクが「会津若松デジタルトランスフォーメーションセンター」を設置した理由【第33回】
ソフトバンク 法人事業統括シニアテクノロジーエグゼクティブ 石岡 幸則 氏に聞く
全国共通課題のヘルスケアと防災に会津発で取り組む
石岡 私たちが会津で活動するにあたってはヘルスケアと防災の2つのテーマで実証事業に取り組もうと考えています。これは特に優先度の高いテーマは何かを考えた結果であり、自然な優先順位です。ヘルスケアと防災は全国共通の課題です。
もちろん、通信事業者としての当社の経験や強みを存分に発揮できるのも、これらの分野だと考えました。ここでも大切なことは共創です。他の組織や企業と一緒に考え、取り組み、市民との接点を大切にしていきます。
ヘルスケアの領域では、医療サービスの質の向上と医療に係るコスト削減をテーマに、当社のグループ会社、ヘルスケアテクノロジーズが取り組んでいます。「PHR(パーソナル・ヘルスケア・レコード)」の集積を通じて市民の行動変容を促し、最終的に持続可能な社会の実現を目指しています。
データそのものは市民個人のものです。健康にまつわるデータをオプトインで預かり、さまざまなサービス/ソリューションを市民に還元していきます。たとえば「尿酸値が高い」という悩みを持つ市民がいれば、その人に寄り添う食生活や運動を提案したり、データが悪化したら医師にかかる判断を促したりします。
ゆくゆくはオンライン診療などにつなげ、症状に合わせた選択肢を提供したいと考えています。
中村 医療関係者と市民、それに行政にとって「三方よし」の仕組みですね。
石岡 はい。そして防災領域では、災害時の避難誘導や安否確認を統合できるサービス「マイハザード」をアクセンチュアと開発中です。
災害はいつ、どこにいるときに起きるかわかりません。旅行先など土地勘のない場所で被災する可能性もあるだけに、今いる地点からの安全な誘導が必要です。「マイハザード」では、GPS(全地球測位システム)と地域のハザードマップを連動することで、災害時の“命綱”になるソリューションだと考えています。
ほかにも、離れた家族がどこに避難しているかも確認できますし、広域災害だけでなく、「道の側溝が外れている」「この道は危険」など身近な危険箇所を市民にフィードバックする仕組みも通知機能で実現します。
マイハザードにおける個人データについて私たちは、オプトインを「許諾・同意」というよりも「参加」と捉えています。平時には意識しなくても、非常時に備えてマイハザードに「参加」しておくことで、いざというときにきっと役立ちます。会津で網羅的に企画し、社会実装までを実現させたいと考えています。
中村 まさに人が中心の発想ですね。デジタル化を提唱すると、病院や行政の負担になったり、さらには既存の仕組みを壊すのではないかと心配される方がいます。ですが、市民が喜べば地域は良くなるし、患者が喜べは、その病院も良くなります。人間中心とは、プライオリティを変えることで見えてくる世界観を言っているのです。
マイハザードが実現すれば、位置情報によって土砂災害や家屋が崩壊して生き埋めになった被害者をレスキュー隊は即座に救出できるようにもなります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として活用できるようになればクラスターの発見にも役立つでしょう。
デジタルによる自律分散社会は広義の“地産地消”だ
中村 ところで、Yahoo!、LINEといったサービスそのものは全国共通でUI(ユーザーインタフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)も同じですね。同様な発想で都市のデジタル基盤を共通にし、その上に地域ごとのニーズに重点的に応えるオプションを乗せることが重要だと思います。
たとえば豪雪地帯では除雪の案内を目立たせる必要がありまですが、南国では不要です。その都市が海に面しているのか、山林の土地なのか、産業構造や人口動態はどうかといったことでも変わります。だから地域主導・市民中心で考えなければなりません。
石岡 統一UI/UXの話は非常に面白いです。全国共通サービスの視点でデザインし、自治体ごとにバラバラで無駄な投資は是正する。クラウド時代に当たり前のサービスをクイックに提供することもソフトバンクの得意技です。
中村 アクセンチュアも同様です。プランを描き、実装し、実際に市民の1人として利用しながら改善のサイクルを回していく。しかも自治体行政の垣根を越えて行き来できるのも、民間企業だからできることです。
石岡 そうした社会実装をデザインする人(アーキテクト)が日本にとって、どれだけ重要かがよくわかります。ソフトバンクにとってもスマートシティは、まさに「共創の実践」です。大量消費による環境問題や、格差といった現代の社会問題の解決のために、私たちの世代が責任持って取り組まなければならないことは本当にたくさんあります。
私は自律分散社会とは、広義での「地産地消」だと思っています。日本の国土は地理的に縦に長く、伝統や文化、自然も多種多様です。私自身も、もっと日本の多様性に触れたいですし、デジタル化社会を日本で実現させ根付かせたい。そのためにソフトバンクの会津拠点は全力で取り組んでいきます。
中村 ありがとうございます。これからも是非、コラボレーションを深めていきたいと思います。
中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)
アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。
現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。