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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松での9年間の活動で見えた市民によるデジタルイノベーションのカギ【第34回】

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括)
2020年12月24日

カギ3:市民が市民のデータを市民のために使う

 市民によるデジタルイノベーションを実現しようとするとき、「データはそもそも市民のものである」ということを忘れてはならない。つまり、あくまでも行政が管理している市民データは「行政が預かっている」ということだ。

 医療の電子カルテの場合、医師の診断が入るため、その結果としての共同著作物であるととらえられるが、医療データそのものは、患者・市民のものであり、病院はそれを預かっているのである。

 日々生み出されるエネルギーデータや健康データ、行動履歴や購買履歴などを生み出しているのは市民であり、それらデータは市民のものだ。だからこそ、筆者らは市民の参加率にこだわり、市民の意思でデータを提供する「オプトイン」にこだわってきた。もちろん、行政が持つデータをオープンデータとして活用することも併せて重要だ。

 市民によるデジタルイノベーションは、データの持ち主である市民が、自分自身や家族、そして地域のために使うことを目的として、データを能動的に提供することから始まる。

 昨今は、データの官民連携が検討されているが、民間にも休眠しているビッグデータが存在している。例えば、各種ポイントを集めるために、ローンを組むために、保険に加入するためにといった形で取得したデータは、個人の了承なしには目的外の使用はできず“宝の持ち腐れ”状態になっている。

 会津若松市のスマートシティプラットフォームである「都市OS」のオプトイン機能では、サービス単位で市民自らが選択し設定する仕組みになっている。新たなサービスを提供するためにAPI(Application Programming Interface)連携し、利用目的を明確にした上で再度オプトインする仕組みを整えれば、民間の休眠データを有効活用できるようになると考えている。これにより、市民によるデジタルイノベーションがさらに進むと考えている。

カギ4:市民が参加する新しい公共を

 20世紀は、行政や大企業や中央主導の時代として、まさに東京に“一極集中”させることで日本全体を牽引してきた。高度経済成長の時代には国民も一致団結して日本経済を押し上げることに集中し、高いモチベーションで実現してきた。

 しかし、90 年代とともに始まったバブルの崩壊で、国民の一体感は希薄になっていき、行政と市民という“二極構造”になり、メディアや市民の立場が強くなり対立構造すら見られるようになった。

 市民によるデジタルイノベーションを実現しようとする今、市民は公共サービスを享受するだけの存在ではない。今度は、市民が地域づくりに自分の意識で参加するという“一極型”の新しい公共モデルを模索しているとも言える。

 それを明確に意識している市民は、まだまだ少ないかもしれない。だが、自分が提供したデータの結果が政策に反映されることを認識していけば、おのずと新しい公共の形も見えてくるだろう。会津若松においては、一般社団法人スマートシティ会津がローカルマネージメント法人として、新しい公共の役割を担う中核組織として機能していかねばならないのである。

カギ5:日本をフラットにする

 都市部と地方部の賃金格差の問題は、これまでも議論され、解決が難しいとされてきた。会津若松では3年前より、地方の中小製造業の生産性を30%向上させることを目標に共通プラットフォームの整備を進めている(第30回参照)。従来の中小企業政策にデジタル化やシェアードモデルを導入することで、十分に達成できる見込みも立ってきた。従業員の給与も向上できるようになるだろう。

 地方の産業が負担に感じている手数料ビジネスから、データによる付加価値創造ビジネスへと変革をうながしたいと考えている。会津若松市ではデジタル地域通貨を商店街で利用できるように計画中だ。加盟店にかかる取引金額単位に数%が掛かる手数料負担をなくし、現金への換金をいつでもできるようにするためである。多くの商店街からも賛同の声を得ている。

 地方の生産性向上、付加価値創造ビジネスへの変換は日本をフラット化させる大きな要因になるだろう。

カギ6:デジタル生活圏で考える

 市民主導によるデータ駆動型のスマートシティを進めてきて、自身が普段、どの範囲で生活しデータを発生させているかを意識するようになった。

 例えば、筆者が東京で暮らしていた頃、住まいは世田谷区にあり、港区のアクセンチュアに通い、中央区の聖路加病院で医療を受け、多くの購買は渋谷区で行っていたと記憶している。私の生活圏は4区にまたがっていた。

 つまり、生活圏を無視して自治体単独でスマートシティを実施しても、期待する成果は実現できないということだ。周辺自治体との連携が必要になってくる。会津でも、一部の施策については周辺自治体と連携し、広域の会津地域として取り組んでいる。

 一方、コロナ禍で、首都圏の知事らは一都三県で連携しながら対策を打っている。だが、例えば千葉県の房総半島の住民にとって東京都心が生活圏といえるだろうか?これでは生活圏というには広すぎてしまうのである。

 では、あるべき「デジタル生活圏」とは何か。これは今後さらに検証を深めていく必要があるが、色々な係数から導き出したところ、全国が300弱の生活圏に定義できるのではないかと考えている。人を中心としたデジタル社会を目指し、さらに検討を深めていきたい。

“Open My Eyes” and “Let there be Change!”

 さて、2017年より3年にわたり続けてきた、会津若松市を舞台とし本連載は、今回をもって不定期更新に移行させていただく。これからは、会津若松での経験を日本の“あるべき分散社会”の構築に活かしていきたい。

 並行して、スーパーシティの意義や、都市OSの連携の重要性、日本が初めてチャレンジする標準と共通、統一アーキテクチャーの推進とKPI(重要業績評価指標)など、デジタルによる地域分散社会に関する連載を始めたいと考えている。

 本連載をお読みいただいた皆様に、また、本寄稿をサポートしていただいたすべての方々に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。“Open My Eyes” and “Let there be Change!”

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同代表。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。