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貿易金融にみるブロックチェーンの業務への適用効果【第3回】

唐澤 光彦(NTTテクノクロス エンタープライズ事業部マネージャー)
2018年10月4日

ブロックチェーンの適用業務を考えていくに当たり前回は、ブロックチェーンが持つ特徴を発揮できる業務の条件を整理したうえで、取り組みが進んでいるブロックチェーンの実証実験の動向をみてみた。今回は、その適用条件をより理解するために、具体的な業務を取り上げてみたい。取り上げるのは「貿易金融」業務である。

 ブロックチェーンの適用を考える前に、「貿易金融」という業務自体を説明する。貿易金融とは、輸出入を円滑に進めるのに必要な資金の融通や信用の供与など、貿易に関連するすべての金融を意味する。

「書類のバケツリレー」が続く業務の代表例

 貿易金融における業務のポイントは「書類のバケツリレー」だ。貿易取引では、輸出者や輸入者、輸送会社、金融機関など複数の関係者が、取引や通関、決済、貨物に関する、さまざまな書類を異国間でやり取りする必要があるためである(図1)。

図1:貿易金融における取引の流れ

 貿易金融に関する主な書類を表1に示す。以後の説明で重要なのは、「№2」~「№5」の書類である。

表1:貿易金融における主な書類
書類名概要
1契約書取引条件を記載した書面、および双方証明によって輸出者(売主) と輸入者(買主)の間で交わされる
2信用状(L/C)輸出者が信用状条件に基づく書類を呈示することによって、輸入者に代わり、輸出者に対して代金の支払いを確約した保証状。輸入者の取引銀行が発行する
3商業送り状(インボイス)輸出者が輸入者宛てに作成する、貨物の明細書、および代金請求書
4船荷証券(B/L)船会社が輸出者の貨物を受け取った場合に発行する書類。輸出者にとっては代金を受け取るため、輸入者にとっては商品を引き取るための権利証の意味を持つ
5保険証券輸出者が保険会社と契約した内容証明
6梱包明細書(パッキングリスト)輸出貨物の個数、包装後の重量や容積などを記載
7輸出申告書輸出を申告するために税関に提出(輸出入・港湾関連情報処理システム「NACCS」によるオンライン化済み)
8輸入(納税)申告書輸入や納税(関税など)を税関に申告するための書類(輸出入・港湾関連情報処理システム「NACCS」によるオンライン化済み)
9荷為替手形荷為替手形決済で使われる書類のセット(為替手形、船積書類)

 上述したように、貿易金融では、多くの登場人物が、さまざまな書類をやり取りする。参加者や手続きが多いため、商品の引き渡しとのタイムラグが非常に大きいという現実がある。

 貿易金融において特に重要な書類が「信用状(L/C = Letter of Credit)」だ。信用状には、次のような特長がある。

・商品の売買取引が円滑に進められるように工夫された、非常に重要な仕組みである
・輸出者と輸入者の双方のリスクを回避するために、輸入者側の取引銀行が発行する
・輸出者が信用状を受け取るということは、銀行が輸入者の支払いを保証してくれるという重要な意味を持っている

 信用状は、輸出者と輸入者のそれぞれに以下のメリットを提供する。

輸出者にとってのメリット

・代金回収リスクの回避。信用状に記載された条件に基づいて書類を提出することで、国際的に信用のある銀行が、輸入者からの代金支払いを確約してくれる
・資金負担リスクの回避。輸出者は、貨物を船積みしたときに受け取る書類を銀行に提出すると代金を回収できる。

輸入者にとってのメリット

・資金負担リスクの回避。輸入者は、商品が輸入国に到着次第、代金を決済すればよい
・商品入手リスクの回避。輸入者は、貨物を受け取るための必要な書類を銀行経由で確実に入手できる。輸出者は、信用状に記載されている条件の書類提出を求められるため、輸出者に対して契約に即した取引を促すことができる

 貿易金融に関する書類は現在、メールやFAX、郵送といった手段でやり取りされており、多大な時間とコストの負担が大きな課題になっている。書類紛失のリスクや、FAXによる文字のつぶれによる内容の確認、誤解などに伴う情報の誤入力、単なる担当者の誤字脱字など、さまざま作業ミスが引き起こす、書類の不備による手戻りの発生が主な原因である。