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  • デジタルシフトに取り組むためのソフトウェア開発の新常識

デジタルシフトがソフトウェア開発にスピードを求める理由【第1回】

梶原 稔尚(スタイルズ代表取締役)
2018年9月26日

スタートアップが目指すのは「リーンな経営」と「アジャイル開発」

 スタートアップ企業が獲得を目指す方法論の1つが「リーン・スタートアップ」です。米国の起業家であるエリック・リース氏が2008年に提唱した、起業や新規事業の立ち上げに向けた管理手法です。「リーン(Lean)」とは「痩せて引き締まった」と言う意味です。そもそもはトヨタ自動車の生産方式である「TPS(Toyota Production System)」をもとに、米MITが提唱した「リーン生産システム」に由来します。

 リーン・スタートアップでは、ギリギリのコストと短いサイクルで、ビジネス上の仮説の具現化と、その検証、仮説の改良を繰り返しながら、本来のニーズを掘り当てていきます。この考え方が、新規事業や顧客との新しい接点の創出を目指すデジタルシフトでも求められているのです。

 そのプロセスは簡単に言えば次のようになります。

(1)仮説をできる限り低コストで素早く形にし、必要最小限の製品として顧客に提供する
(2)それが受け入れられるかどうかについて顧客からフィードバックを得る
(3)その結果を元に改善や軌道修正を繰り返す
(4)そもそもの仮説が誤りであれば、ダメージが少ないうちに進路を変更(ピボット)する

 つまりリーン・スタートアップでは、新規事業をできる限り小さく作り、顧客からのフィードバックによってサービスを改良するなど、軌道修正(ピボット)を繰り返し成功に導いていきます(図2)。

図2:リーン・スタートアップの管理手法に基づく事業創出のサイクル

 一般に、新しいサービスを提供しようとすれば、多くの人は、できるだけ完全なものを作り上げようとします。しかしリース氏は、「開発の初期段階は失敗することを前提に計画を作るべきであり、そこの多くの時間とコストをかければかけるほど失敗した場合にムダが大きくなってしまう」と説きます。検証すべきアイデアだけを最低限に盛り込んだ機能である「MVP(Minimum Viable Product)」を提供し素早く検証することが大事だと訴えます。

リーンとアジャイルは従来型企業の“敵”か

 そして、リーン・スタートアップのためのシステム構築プロセスと言えるのが「アジャイル開発」という手法です。「アジャイル(Agile)」とは、直訳すると「素早い」「機敏な」いう意味です。2001年頃に、旧来の開発手法に対するアンチテーゼとして提唱されました。

 アジャイル開発では、初めから全体の細かな仕様は決めず、おおよその仕様だけで細かな反復的スケジュールで開発を始めます。小単位の「開発とテスト」を繰り返すことで、徐々に開発を進めていきます。

 筆者の経験によれば、日本のIT部門は、リーンやアジャイルといった考え方をなかなか受け入れようとしません。それは、彼らが大事にする「要求通りに完成させる」「成果物への責任」「ウォーターフォール」といった、これまでの“常識”的な考え方と相反する概念だからです。

 しかし、ソフトウェアを開発する目的は本来、ビジネスの成功を実現するためであるはずです。ビジネスのあり方が変わったのであれば、開発の方法論も変わってもよいはずです。むしろ、変わらなければなりません。残念ながら、冒頭でご紹介したように、システムインテグレーターや企業のIT部門の現状は、まだまだ、その真逆にあると言えるでしょう。

 次回からは、ウォーターフォールを中心とした従来のソフトウェア開発方法論では、デジタルシフトのためのソフトウェア開発が、なぜ上手く進まないのか、そしてその課題はどのように改善していけば良いのかについて、考えていきたいと思います。

梶原 稔尚(かじわら・としひさ)

スタイルズ代表取締役。慶応義塾大学卒業後、舞台俳優を志しながら、アルバイトでプログラマーになるも、プログラムのほうが好きになり、30代前半でIT企業を設立。以来、自らエンジニアとして数多くの業務系システムの案件をこなしながら、社長業を兼任する。

「最新技術やOSS(オープンソースソフトウェア)を積極的に活用することで、IT業界の無駄をなくし、効率の良いシステム開発・運用を行う」をモットーに、日々ITソリューションの企画・開発に取り組んでいる。趣味は散歩と水泳。