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  • デジタルシフトに取り組むためのソフトウェア開発の新常識

デジタルシフトがソフトウェア開発にスピードを求める理由【第1回】

梶原 稔尚(スタイルズ代表取締役)
2018年9月26日

筆者が率いるスタイルズは、基幹システムの開発に加え、デジタルシフトのためのシステムをクラウド上に構築するサービスを「CloudShift」として提供しています。ここ1年ほど、これまで取引が全くなかった企業の事業部門の方からご相談を頂くことが急増しています。みなさん「これまでのシステム構築の考え方では前に進めない」と異口同音にはなされます。これは一体、どういうことなのでしょうか。

 最近、弊社にご相談いただく企業は、実にさまざまです。金融・保険、自動車を含む製造業、各種メディアなど、そこに偏りはありません。最初の接点も、弊社がクラウドシステムやデジタル関連システムを対象に展開する開発サービス「CloudShift」のWebサイトから、あるいは出展したクラウド関連のカンファレンスやセミナーの会場だったりします。

 みなさんが異口同音に話されるのは、「これまで基幹システムの構築・運用を依頼していた大手のシステムインテグレーターに相談しても、どうもピンとこない。意向にそった動きや提案をしてくれない」ということです。

 もう少し具体的に言えば、多くの企業がビジネスのデジタル化(ここでは「デジタルシフト」と呼びます)に関連する企画を考えており、それを実現するためのソフトウェアを開発したいと思っています。ただし、システム開発関連の取引先としては、既存の委託先である大手システムインテグレーターしか知らないため、まずはそこに相談するわけです。

 ところが、彼らからの回答は、スケジュール感や開発スタイルが合わず、1年以上かかるスケジュールを提示されたり、分厚い提案書を提示され予算が数億から数十億だったりします。それで困ってしまい、ネット検索し弊社にたどり着いたというわけです。どうもデジタルシフトのためのソフトウェア開発に関しては、大きなミスマッチが起きているようです。その要因はなんなのでしょうか。

ソフトウェア開発力こそが競争力の源泉に

 デジタルシフトの必要性が叫ばれ始めてから、すでに4〜5年は経つでしょうか。企業にとっての顧客接点がスマートフォンに移行したのを契機に、デジタルマーケティングを主要課題にとらえるB2C(企業対個人)型の企業が急増しました。一方、B2B(企業間)型の企業は、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、ビッグデータ、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)といったデジタル技術をテコに、新しいビジネスの創出を喫緊の課題に、とらえ始めています(図1)。

図1:デジタルをテコに新ビジネスを創出するデジタルシフトが喫緊の課題になっている

 デジタルシフトとは、こうしたデジタルマーケティングや、IoT、AI、APIといったデジタル技術を使ってデータをリアルタイムに収集し、そのデータを素早く解析することで、ビジネスの改善や新しいビジネスの創出にフィードバックしていく流れ全体を指すと考えればよいでしょう。

 そのすべての過程で必要になるのが、ソフトウェアの開発であり活用です。つまり「企業がデジタルシフトする能力」は「ソフトウェアを素早く開発できる能力」と言い換えられます。高度なソフトウェアを素早く開発しリリースする能力こそが、デジタル化時代に成長できる企業が求める競争力の源泉なのです。

素早いソフトウェア開発力はスタートアップの前提条件

 高度なソフトウェアを素早く開発できる能力を持った企業という時、どんな企業が思い浮かぶでしょうか。「AGFA」と呼ばれるApple、 Google、 Facebook、Amazonの4大米国企業でしょうか。それはそれで正しいのですが、あまりに巨大すぎて、ちょっと現実味にかけるかもしれません。

 ではスタートアップ企業はどうでしょう。彼らは新しいソフトウェアを世に問うて、それをテコに市場を開拓する企業です。ソフトウェアの開発力や開発スピードによって、その成否が決まってきます。

 日本にもスタートアップ企業は存在します。フリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリが、その一例です。2013年の設立後、わずか5カ月後にフリマアプリ「メルカリ」をリリース。スマホの普及に合わせ積極的な広告展開で若い女性を中心に浸透させました。2016年頃からは海外にも進出しています。アプリの累計ダウンロード数は、2018年3月時点で、日本で7100万件に、米国は3750万件にそれぞれ達しています。

 メルカリの技術者は、エンジニアのコミュニティにおいて、熱心に発言し活躍されています。2015年頃までは、スマホアプリの開発やシステム基盤に関する発表が多かったのですが、2018年にはAIによるデータ活用に会社としての関心が移っているようです。メルカリは、ソフトウェアの開発力によって成功してきたスタートアップ企業の代表例と言えるでしょう。

 既存業種の企業がデジタルシフトするためには、メルカリのような成功したスタートアップ企業と同様のソフトウェア開発力を身に付ける必要があります。では、スタートアップ企業は、どのようにソフトウェアを開発しているのでしょうか。彼らが獲得している方法論を学ぶことは、企業のデジタルシフトに必ず役に立つはずです。