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ロボットや3Dプリンター、IoT環境などがそろう「ならAIラボ」で中小企業の持続的成長を支援【奈良県IoT推進ラボ】

増山 史倫(奈良県産業振興総合センター 生活・産業技術研究部 IoT推進グループ 主任研究員)
2019年7月5日

 奈良県IoT推進ラボはこれまで、公設試験研究機関である奈良県産業振興総合センターの技術系職員が中心になり、県内の商業・サービス業・ものづくり企業に向けた技術支援と、イベントやアプリケーション開発などの啓蒙活動をベースに活動してきた。

 そうした活動の中から、IoT/AIの活用推進拠点として生まれたのが「ならAIラボ(ならあいらぼ)」だ(写真1)。2019年1月30日に開所し、2019年4月から本格的な利用が始まっている。同ラボは表1に示す布陣で運営している。

写真1:奈良産業振興総合センター内にある「ならAIラボ」
表1:「ならAIラボ(ならあいらぼ)」プロジェクトのメンバーと役割
メンバー名役割
奈良県産業振興総合センター企画・運営・技術相談対応
地域産業振興センター、奈良県よろず支援拠点経営相談・マッチング
奈良先端科学技術大学院大学、奈良女子大学、奈良工業高等専門学校、京都大学防災研究所アドバイザー
産業政策課、情報システム課関係部署としての庁内連携

いつでも使える最新の3D機器やIoT環境を用意

 ならAIラボが目指すのは、IoT/AI技術を活用するための道具に、気軽に触れられたり試したりができる場所である。そのため「自動化」「省力化」をテーマに最新の機器を取りそろえた。双腕多関節ロボットや3D(3次元)切削加工機、3Dスキャナー、光造形3Dプリンターなどである(写真2)。

写真2:ならAIラボに置かれた「自動化」「省力化」がテーマの最新機器。左上から時計回りに、双腕多関節ロボット「duAro1」((川崎重工業製)、3Dスキャナー「Go SCAN20」(加Creaform製)、光造形3Dプリンター「Inkspire」(ポーランドZortrax製)、3D切削加工機「MODELA Pro II MDX-540S-AP」(ローランド ディー.ジー.製)

 これら機器に加え、IoT/AIを道具として使えるように、汎用のIoTサーバーと、温度・湿度・気圧・照度センサーを備えるセンサーノードも用意する。さまざまな情報源からデータを集め保存したり、可視化や通知、転送したりといった仕組みを容易に構築できる環境を用意することで、中小企業がIoT/AIに関する研究開発などに取り組み易くするのが目的だ(写真3)。

写真3:温度・湿度・気圧・照度センサーを備えたセンサーノードと、IoTサーバー上のデータを可視化するモニター画面(左)。IoTを理解するためのセミナーも開催している(右)

 ハードウェア/ソフトウェア面の整備と並行し、講習会や交流イベントの開催、企業のマッチングなどの支援活動を進めている。IoT/AIに興味を持った企業の取り組みを継続していくためには、気軽に相談できる環境や仲間の存在が重要との考えからである。

 セミナーは現状、自動化に取り組むための初学者向け講習会が中心だ。ならAIラボをより気軽に利用できるようにオープンデイを毎月開催している。毎月最終金曜日に半日程度、機器を自由に触って試せる時間を設定するもので、ミニ勉強会や参加者間の情報共有の場になることを期待する。

同志が集まるコミュニティ形成を支援

 奈良県では、奈良県IoT推進ラボの活動以前から、ものづくり中小企業に向けたIoT講習会を開催していた。だがフォローのための体制づくりが進まず、定着に苦戦してきたのが実状だった。参加者本人が「面白い」と感じ興味を持っても、それを続けるための社内外の環境、つまり相談相手や時間がなかったからだ。

 ただ、ここ数年は、IoT/AIに対する経営者の意識が変わってきた。奈良県IoT推進ラボが開いた講習会の受講者が、それぞれの会社に戻ってからも継続的な動きを続けていると聞くようになってきた。実際、講習会後の技術相談も増えている。

 2019年度も引き続き、講習会やイベントを開催し、身近な課題にIoT/AIを活用してみようと考えられる人材を増やすと同時に、彼らが同志として集まれるコミュニティの形成を支援していきたい。なお奈良県IoT推進ラボのメルマガは、こちらから登録できる。

増山 史倫(ますやま・ふみひと)

奈良県産業振興総合センター 生活・産業技術研究部 IoT推進グループ 主任研究員