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ロボットや3Dプリンター、IoT環境などがそろう「ならAIラボ」で中小企業の持続的成長を支援【奈良県IoT推進ラボ】

増山 史倫(奈良県産業振興総合センター 生活・産業技術研究部 IoT推進グループ 主任研究員)
2019年7月5日

古代の首都だった奈良には、平城宮跡や東大寺、春日大社など多くの国宝建造物が残り世界遺産にもなっている。同時に、グローブや靴下、スキー靴、割り箸など生産量日本一を誇る産業も少なくない。その奈良で、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI(人工知能)の利用推進と拠点化に向けて2019年1月にできたのが「ならAIラボ(ならあいらぼ)」だ。同ラボを軸に持続的な成長を目指す奈良県IoT推進ラボの取り組みを紹介する。

 東大寺の大仏や奈良公園のシカ、興福寺や法隆寺など、多くの文化遺産を誰もが思い浮かべる奈良県。多くの古墳群や旧跡など日本の“はじまり”を今に伝える古都であり、多くが修学旅行や個人旅行などで訪れたことがあるのではないだろうか。これら豊富な文化遺産を背景に、最近は特に、外国人観光客の伸びが顕著である。

 一方で生産量日本一を誇る産業も集積している。古来の芸術文化を支える墨や茶筅はもとより、鹿革や毛皮、野球のグローブやスキー靴、割り箸や集積材、靴下と貝ボタンなども、その生産量は日本一。国内シェアが8割、9割という商品も少なくない。また金魚の養殖は販売量日本一だ(図1)。

図1:生産量/販売量日本一を誇る数々の産業が奈良県にはある

 ただ、伝統工芸や地場産業のほか、輸送機械部品や電気機械器具、住宅や食品の大手メーカーの工場と、それに関連する中小企業が多く存在するものの、製造品の出荷額は全国37位(2017年)と低迷している。地域を牽引するような基幹産業に恵まれていないのも事実である。

 その理由の大きな1つに、奈良県が大阪都市圏のベッドタウンとして発展してきたという経緯がある。さらに少子高齢化時代を迎え、大阪などで働いてきた世代が退職を迎えている。奈良県における 65 歳未満の人口は、2010年時点の106万4000人が2025年には 86 万3000人と19%も減少すると推計(『平成 25 年3月日本の地域別将来推計人口』、国立社会保障・人口問題研究所)されている。

 結果、雇用者報酬も減少傾向にあり、かつては上位だった世帯当たりの消費額は全国11位にまで下がっている。ただ教育への支出は、全国を100とすれば奈良県は135.9と高い。しかし県内大学への地元進学率は全国44位であり、15歳以上就業者の県外就業者割合は28.8%と全国2位になっている。さらには、県外で買物をする割合が15.2%と全国で一番高い。つまり人材と消費の流出県なのだ(『奈良県のすがた2018』、奈良県 統計分析課)

新しい技術や道具に触れ新しい着想を得るための“場”が必要

 奈良県としても、地元を牽引する企業を増やし、働く場を作る必要があるとの認識がある。そこで2016年1月に、データ活用などIoT(Internet of Things:モノのインターネット)技術による産業育成策を検討するための研究会を立ち上げた。奈良先端科学技術大学院大学と、奈良女子大学、奈良工業高等専門学校、京都大学防災研究所の先生方と、庁内の関係部署職員による研究会を年に数回開催し、データ活用への意識を高め、最新の技術動向を踏まえた施策を打ち出すのが目的だ。

 さまざまに個性的な技術や製品を持つ中小企業が、IoTやAI(人工知能)をうまく取り込めれば、持続的な成長を目指せるはずだ。そのためには、新しいことに取り組む人や企業を支援し、増やさなければならない。新しい技術や道具に触れ、新しい着想を得るための“場”も必要になる。

 並行して県では、IoT時代を意識した観光案内用アプリケーションの開発や、ものづくり中小企業に向けたIoT講習会の開催なども進めていた。その延長で、「他地域の取り組みを学べる」「県の取り組みを客観的に評価できる」「イベントやメディアを通じた情報発信ができる」などを期待し、2016年7月に始動したのが奈良県IoT推進ラボだ。