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  • Society 5.0への道

シャープ、モノからコトまでの全体に応える多業種連携に向けたプラットフォームが重要に

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月29日

 1つは、家電メーカーなどが提供できるデータと、サービス事業者が求めるデータのかい離です。家電製品で取得したデータだからといって、生データをそのまま渡しても、サービス事業者が必要としている情報にはなりません。しかし、メーカー側にすれば、情報開示にも抵抗があるなか、サービス事業者のためにデータを加工することは手間もコストもかかるだけに、高いハードルになります。

 もう1つは、個人情報の扱いを含め、データ活用を社会としてどう許容し整備するかです。一家庭にある家電が単一メーカー製品だけということはありません。複数社の家電から生まれるデータを消費者の許諾を得ながら取得・活用するためには、イニシアチブを取る人と、プラットフォームが必要になります。

 2018年はJEITAの協力のもと、「データカタログ」にまでこぎ着けました。サービス事業者に開示できる情報を整理し、カタログとして整理するとともに、共通のフォーマットによって、それらを突き合わせることで、データの中身を議論できる土台ができました。

−−2018年のCEATECでは何を訴えますか。

 CEATECでは3年前から「スマートホーム」のメッセージを打ち出しています。ただ、これまではシャープが考える「未来の姿を、こう考えています」ということを前面に打ち出してきました。当初は相当に唐突な印象をもって受け止められていましたが、徐々に、それも受け入れられるようになってきたと感じています。

シャープ IoT HE事業本部 副事業本部長 兼 IoTクラウド事業部長の白石 奈緒樹 氏

 そこで2018年は、これまでのコンセプトの裏側、すなわち「もうここまで実現できています」ということを、よりリアルに示したいと考えています。スマートホームの実現に向け、サービス事業者とともに具体的な行動に移るためです。

バックエンドにはアナログな作業が残っている

 たとえば、在宅ケアやハウスキーピングといったサービスは、ここ何十年とサービスが提供され、その間に改善され続けてきました。それをデジタル化すれば、サービス内容が一変するかと言えば必ずしもそうはなりません。

 ところが、そんなサービスを運用するためのバックエンドでは、紙の書類を作成し口頭で引き継ぐなどアナログな作業が多数残っており、現場の担当者の頑張りに依存したままです。ここをデジタル化すれば、業務効率は大きく高まり、結果的にサービス品質の向上にもなります。

 ケア領域などは人材が不足している業務領域が多いだけに、バックエンドの仕組みは抜本的に変える必要があります。Society 5.0の実現には、足元にある状況を一つひとつ解決していくことが、とても大切です。JEITAが進める多業種連携も重要な取り組みです。電子情報産業だけでは家庭や生活のすべては考え尽くせません。

−−消費者との接点は誰もが狙っています。シャープの競争相手は誰ですか。

 AIoTの世界では、競争相手が協力相手にもなるので一概には決められません。あえていえば、同じ家電メーカーであれば、中国や米国、欧州などグローバルに競合は広がっています。さには、自動車や住宅、住設分野のメーカーなども競合相手として視野に入れています。

 携帯電話や個人情報端末といった電子機器に比べれば、家電は、より保守的で、変化の速度はゆっくりかもしれません。しかし、そうしたゆっくりとした変化を、できるだけ早く確実に進めていくためには、「テクノロジーにより生活はこう変えられます」ということを訴え続けることも、メーカーの役割だと理解しています。

 ただ、利用者に提供できる価値を考えるなら、洗濯機や冷蔵庫といったモノが求められているのではなく、「きれいな衣類を着たい「新鮮な食材を食べたい」といった根源的なニーズを考えることの重要性が高まっています。欲しい食材をすぐに届けてくれるサービスがあれば、冷蔵庫は不要になるかもしれません。そんな発想が求められているのです。