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シャープ、モノからコトまでの全体に応える多業種連携に向けたプラットフォームが重要に

志度 昌宏(DIGITAL X 編集長)
2019年1月29日
シャープ IoT HE事業本部 副事業本部長 兼 IoTクラウド事業部長の白石 奈緒樹 氏

人々の暮らしを支えてきた家電製品。デジタル化によって、どんな家電に生まれ変わろうとしているのか。シャープが考える新しい家電について、IoT HE事業本部 副事業本部長 兼 IoTクラウド事業部長の白石 奈緒樹 氏に聞いた。(聞き手は志度 昌宏=DIGITAL X編集長)

(本稿は、『Society 5.0テクノロジーが拓く私たちの未来』(JEITA:電子情報技術産業協会、2018年10月)からJEITAの許可を得て掲載しています)

−−「Society 5.0」に向けた家電をどう捉えていますか。

 これまでは家電という製品、つまり「モノ」を開発してきましたが、そのモノが生み出す「コト」全体を提供できるようになる必要があると考えています。モノとしての家電製品は、機能が決まっており、そのための取扱説明書があります。これに対し「コト」とは、その機能によってもたらされる結果に相当します。

 たとえば、当社は過熱水蒸気オーブン「ヘルシオ」を販売していますが、ヘルシオが提供できる「コト」とは「料理が美味しい」ということです。しかし製品提供だけでは、本当に「美味しい」と感じてもらっているのかまでは分からない。そのため、有名シェフが監修した食材の宅配サービス「ヘルシオデリ」を提供しているのです。

 同様に、掃除機やドライヤー、テレビなど、家電製品のそれぞれには果たすべき役割があるわけですが、シャープとしてはモノからコトまでの全体を提供したいと考えています。

−−そのための手段がIoT(モノのインターネット)への対応ですね。

 モノからコトへのシフトにおいて、IoTは有力な手段の1つです。しかし、家電がネットにつながり、各種のデータを集められるというだけでは誰も買ってくれません。集まったデータをAI(人工知能)で分析し、その知見をフィードバックするというサイクルが不可欠です。そこで当社は、AIによって学習し成長するシステムを生み出すという意味で、AIとIoTを組み合わせた「AIoT」を提唱しています。

 AIoTが広がれば、人の理解が進みます。複数のIoT家電からのデータを統合すれば、個人だけでなく、家族や地域、さらには街全体が、どのような暮らしを送っているのかが分かるようになるでしょう。

 これまで「スマートシティ」といえば、電力消費量の見える化や、誰が電気を使っているかに焦点が当たっていましたが、それだけでは消費者との関係は希薄なままです。電気を使った消費者が、どう感じたのかまでを知ることが重要になってくるはずです。

−−AIはすでに家電製品への搭載も進んでいます。

 エアコンの温度調節機能などですね。センサーで得たデータから、屋内がどのような状況かが、かなり分かるようになってきました。ただし、上手く調整できるだけでは、その価値に気付いてもらえませんし、勝手に調整していると故障と勘違いされることもあります。

“しゃべる家電”の伝え方が重要に

 だから最近の家電は良くしゃべるのです。「室温を25℃に設定しました」など機器を制御していることをあえて知らせています。今は過渡期のため、しゃべる家電が宅内に多数あれば、「それは、さっき聞いたよ」といったことが起こります。今後は、家電同士が連携し、いつ、誰に、何を伝えたかなどを調整していくことになるでしょう。

 伝え方も重要です。たとえば、カーナビなどでは「2時間経ったので休憩を取ってください」といったメッセージが流れますが、冷たい印象を持たれるのではないでしょうか。「次のサービスエリアには、とてもおいしいラーメンがあるので休憩しませんか?」ならどうでしょう。こういうことも、生活に溶け込むためには考えるべき要素になります。

−−一方でシャープは、IoTプラットフォーム自体を提供する事業も手がけています。

 データによって個人から家庭、地域、街までの暮らしが分かるようになれば、そうした“生活データ”を利用したい企業もいますし、当社としても、すべてのサービスを自社展開することは不可能だからです。

 しかし、データの流通が進まない。そこで2017年は、どのようなデータが求められているのかを実証実験しました。そこで浮かんできた課題は大きく2つあります。