- Column
- Society 5.0への道
シームレスだからこそモノの価値が高まっている、大阪万博は絶好の未来都市の実験場
noiz architectsパートナー 豊田 啓介 氏
また日本でも、自動運転車やドローン、ロボットなどが話題ですが、これらについても、もう1段の理解が必要です。スマートシティの文脈では「人間中心」が声高に主張されていますが、デジタル世界の住民とも言える自動運転車やロボットからみれば、人間の世界や、その写像であるデジタルツインは理解ができません。
未来社会でAI(人工知能)が日常的に存在し、自動運転車などと共存していくためには、人間中心だけではなく、彼らも対等の存在として、それぞれの権利を等しく扱える空間が必要です。この空間こそがシームレスな状態であり、これを私は「コモングランド」と呼んでいます。
──なぜ日本の理解が遅れているのでしょう。
データを重視するようになる一方で“遊び”の感覚をなくしてしまったからでしょう。

シミュレーションを前提とした世界では、まずは動かしてみて、そこから計画をし直すことになります。最初に考えたことは、どうせ変わるのです。遊び感覚で始めたことが、どんどん形を変えながら、その結果が後から評価できるのに、遊び感覚をなくしてしまっては、最初の一歩が踏み出せにない。社会は画一化するだけです。
建設業界でも海外の大手企業には20代のCTO(最高技術責任者)がスーパープログラマーを抱え、100人単位のソフトウェア開発チームを動かしています。そこでは、Googleやゲーム業界から、どうやって人材を引き抜くかが真剣に考えられています。
──そのような状況下で日本は「Society 5.0」に向けたイノベーションは起こせるでしょうか。
若手は起こしたいと考えていますし、その可能性はあります。“遊び”の感覚を過去の成功体験に縛られた層が遮らないことが必要です。
だから私は、次世代のスマートシティ競争においては、2025年の大阪万博(日本国際博覧会)をどう活用できるかが最後のチャンスだと主張しています。この大阪万博で、デジタルツインやコモングランドの概念を採り入れた未来都市の“あるべき姿”を作り上げられなければ、Waterfront Torontoなどに取り組んでいる海外勢に勝つ術はないと考えるからです。
1970年の大阪万博(万国博覧会)では30代の若手が企画・実行の中心にいました。だからこそ、あれだけの博覧会が実現できたのです。25年の万博を含め、若手の才能に任せるという判断も必要でしょう。
「Society 5.0」も、その言葉が広がる一方で、各企業が個別の理解で個別に取り組んでいるのが気になります。もっとSociety 5.0のビジョンや全体感を鮮明に打ち出し、そこに向かってみんながシフトしようという動きにならねばなりません。それを実験できる場が大阪万博なのです。
──未来を考えるうえで大事なことは何ですか。
既存の枠組みの外側から見る努力をすることです。今見えている正解は、ほんの一部にすぎません。世界は拡張しています。そこに何があるのかを自らが調べ、価値を理解し、同じ解像度をもって身に付けていかなければなりません。そのためには、新しいセンサーも必要です。
未来は眼の前にあります。ただ、それが見えていないだけなのです。
豊田 啓介(とよだ・けいすけ)
noiz architectsパートナー。蔡 佳萱 氏と酒井 康介 氏と共宰する建築設計事務所noizにおいて、「コンピューテーショナル・デザイン」分野に実験的かつ実効的に切り開くことを意識して活動している。2017年3月には「建築・都市」と「テクノロジー」「ビジネス」とをつなぐ新しいタイプのリサーチコンサルティング会社gluonを構造エンジニアの金田 充弘 氏と不動産開発やエリアマネジメントを専門とする黒田 哲二 氏と共同で立ち上げた。「EXPO OSAKA/KANSAI 2025(大阪万博) 」招致における会場計画アドバイザー/プレゼンターを務めた。